原田豊太郎「理系のための英語「キー構文」46―英語論文執筆の近道 (ブルーバックス)」

英語論文を書く際のコツに関する本を一冊。こういう科学英語に関する本は、とにかく買って読んでみることにしている。
英語だけでなく、『日本語にも構文がある(p309)』という考えをもとに、自然な日本語と英語の対応を構文単位で考えて提示していくこの本。この著者には他にも英語科学論文を扱ったブルーバックスが2冊ほどあって、ときどき参考にさせてもらっている。

本書は、英語で文章を書くことに慣れていない人が、「自然な日本語文」を基にして、「自然な英語」で科学論文を始めとする自然な英文を書くための従来にないタイプのツールである。(p18)

最初から英語で書くし、そのほうがうまく書ける、という人にはこの本はアピールしないかもしれないし、必要ないと感じられるかもしれないが、そういう人にもためになる一冊であると感じた。
ちなみにぼくはこれまで10本以上、自分で書いたり後輩のを直したりしてきたが、常に「まず日本語で文章をかっちり作る」ことにしているし、学生にもそう勧めている。
それは、細かい論理の流れなどを英語で最初から書くのは難があると思うからだ。ぼくらは、英語で論理を語るのに慣れていない。英語でうまく書けたと思っても、後に詳細にみんなで検討する段になって、「論理がおかしい」となると結局日本語で考えることになる。
では実際、この本をこれから論文の英語を書く際に参照するかと自問してみると、そうでもないかなと感じている。それは、自分が言いたいことをこの本の見出しから一つ見つけ出すのは案外難しいなと思うからだ。


「自然な日本語」にもクセがある。この本で同じ構文になるだろう日本語でも、人によってさまざまな表現のしかたがあるだろう。この本を読んでいる際に、英語論文の下書きとしては、自分だったらこういう日本語は使わないな、という表現もかなりあった。
それは、普段自分が、英語論文の下書きとしては、「英語に直しやすい直訳調の日本語」を用いている、というのもあると思う。例えば、この本で「Aが存在するとBが阻害される」と書いてあるところを、ぼくは「Aの存在はBを阻害する」とAを主語にして書いてしまう。
ここに、この本の指摘する日本語と英語の構文の違いがある。たとえば上の例だとざっくり書くと「英語は能動態・無生物主語が多い」とでも言えるかもしれない。
そういう目で日本語を見ると、この本でも指摘されているが(p26)、例えば「が」のような助詞は、実に多義的で曖昧なもののように感じる。逆接なのか、譲歩なのか、ただの順接なのか。これを多用すると英語でどう書いていいかわからなくなってしまうのも道理である。
実は、日本語でもなるべく論理的に書こうとすると、こういう多義的な助詞は使えない。順接なら「…だ。そして、」、逆接であるなら「…だ。しかし、」と書けばいいし、譲歩なら「…であるにも関わらず」と面倒くさいが書けばいい。そうして書いていくと、実はあまり日本語と英語の構文の違いは感じなくなるのではないかと思う。


しかし、ではこの本は役に立たないか、というとそうではない。
この本を読んでいくと、著者の意図ではないかもしれないが、今書いたような、「日本語のクセ」「英語のクセ」を嫌でも感じさせられる。こういうクセを意識的に考えていくと、自然に日本語を英語に直しやすい形で考えられるようになる。もしくは、最初から英語で考えることができるようになるかもしれない。
実際、取り上げられている英語の構文は非常に定番で、英語論文でよく目にする、そして自分でもよく使う表現だらけである。少し時間はかかったが、自分ならどうやって英語で表現するか、と考えながら読んでみると大変勉強になった。今後これは使っていきたい、という表現もかなりあった。
日本語の構文、というものを考えたこの本は、たいへん挑戦的なことをやっている。さすがに、この本を参照すれば対応する英語の構文を一対一でひっぱってこられる、というのは難しいかもしれない。しかし、上に書いたような理由で、英語の論文を書く際の苦労を少しでも軽減したい人には、この本を丁寧に読んでいく価値はありそうだ。