吉澤大「儲かる会社にすぐ変わる! 社長の時間の使い方」

税理士・中小企業診断士などの資格を持ちコンサルティングを行っている著者が、儲かる会社にするために社長がどのように仕事をすべきか、についてアドバイスする一冊。『自らコントロールできる時間領域がはるかに大きい(p3)』社長だからこそできる仕事術があるという。確かに、それは会社や上司の都合にどうしても合わせる必要があるビジネスパーソンとは変わってくるだろう。
税理士らしく、固定費とか損益分岐点とか1時間あたりの稼ぎだとか、お金について考えながら効率の良い仕事のしかたを探っていくやりかたはとても理論的である。こうした議論から著者は、社長が時間を使うべき3つのこととして、以下のことを提唱する。

社長が費やすべきは「ビジネスモデルの考案・選択」「他人にやってもらうためのしくみ作り」「人脈形成と情報・知識習得」である。(p62)

一番最初の「ビジネスモデルの考案・選択」は、いかに効率よく、向かい合うべきビジネスを選択するかということであり、「イシューからはじめよ」で述べられている「解くべき問題を見きわめよ」という教えと似ている。最後の「人脈形成と情報・知識習得」にはあまり新しい考えはないように思えた。自分として発見があったのは、「他人にやってもらうためのしくみ作り」の章である。ここについて少し詳しく書き残しておく。
よく、マニュアルが大事であるとは聞くが、最近ことに、時間がないぞ、生産性をもっとあげないと、と考えているだけに、これこそ今やらねば、との思いを強くした。仕事は、ほんとうに突き詰めていくと難しいし自主性も工夫も必要だ。しかし、著者は『本気で労働生産性の向上を目指すのであれば、とりあえずマニュアルくらい作りましょう。それを飛ばしていきなり従業員が主体的に働いてくれることを期待してもむずかしいのではないでしょうか。(p107)』とびしっと一喝してくれる。その通りだ!
さらには、(1)マニュアルを作る側にも気づきがある、とか、(2)必要のない時点・余裕のあるうちにマニュアルを作っておき、忙しくなったときでも最小限の指導をすればいい環境をつくっておけ、とか、(3)成功体験をマニュアル化していずれは他人ができるようにするからこそ、労働生産性が上がって社長の給料も上がっていく、というそれぞれの指摘はごくごくもっともである。まさに、すぐにやらねば、と思い、ビジネス書を読んで珍しくすぐに実行に移しているところである。


トータルとして読んでみて感じたのが、効率を高めるのに大事にすべきことをひと言でまとめると、つまりは「余裕」なのかなということだ。時間にせよお金にせよ、余裕を確保したうえで、効率を高める方法を考える。そのためには、どうすれば一番余裕を増やせるか、自分の時給を計算しつつ、(おおむねトレードオフの関係にある)時間を使うかお金を使うか、どちらがより有利になるかを考える必要がある。少しずつ、余裕を増加させていく。正のスパイラルを作っていく。そのための、余裕のあるうちのマニュアル化だったり、いつでも使える資金だったり、あえて乗るタクシーなのである。

時間あたりのコストの安い、若い今のうちに、将来的に時間をうまくつかえる仕組みをじわじわと作っていきたい。そういうふうに、自分の時間の使い方を見つめ直すきっかけになった。