小林秀雄・岡潔「人間の建設 (新潮文庫)」

後輩に借りてさらっと読んだ。言わずとしれた小林秀雄と、大数学者岡潔による対談である。

むずかしければむずかしいほど面白いということは、だれにでもわかることですよ。そういう教育をしなければならないと僕は思う。(p11)

という小林秀雄のコメントからはじまるこの本。現在においても彼の『科学というものの性質をはっきりのみ込んでいないということで、これを認識させる教育をしなければいかんのです。(p66-67)』という指摘は完全には解決されてはいない気がする。科学とは、それを理解する人間とは…全編を通して強烈である。人間の、世界の知力が低下していると話す岡潔。そうなると、『物のほんとうのよさがわからなくなる。(p33)』『真善美を問題にしようとしてもできないから、すぐ実社会と結びつけて考える。(p33)』と舌鋒は鋭い。
しかし二人の見ているところは未来であり、現状の科学の問題点を打破して未来の人間社会をよりよく作っていくにはどうすればいいのか、ということを根底に、話は進んでいく。

この本で岡潔が『携わっている学者たちの感情がそれに同感する必要がある(p47)』と語っているのを見て、彼の言う「情緒」がなんとなく腑に落ちた。抽象的になりすぎず、人間の感情を納得させる科学をやること。科学がそれに立脚していること。当たり前のようで、こう言ってくれないと忘れがちな視点だ。少し実学と触れる分野にいるくらいでは彼の考える葛藤がわからない。思い切り抽象的な世界である数学をやっているからこそ、科学として成立するにはどういうことが必要か、などということを考えずにはいられないのだろうと思う。

とことん、「確信したことばかり(p110)」話す岡潔の話はまじめである。そのいっぽうで、小林秀雄の話の可笑しく、かつ奥深いことといったら。特に、彼の知り合いの骨董屋の作った味わい深い俳句の話は笑わずにはいられない。
いろいろと発見の多い対談である。