増田弥生・金井壽宏「リーダーは自然体 無理せず、飾らず、ありのまま (光文社新書)」

これはおもしろい!
あまりにも中身が濃い。しかし、読ませる。たくさん付箋を貼って、一気に読んでしまった。
最近考えていることがまさに言語化されていて、職場の後輩みんなに勧めたいくらいだ。


『帰国子女ではなく、海外留学の経験もなく、ましてMBA経営学修士)でもない(p178)』ふつうの女性である著者の増田弥生さん。オシャレな場所にある会社で働きアフターファイブを楽しみたい、というミーハーな理由から日本の企業に普通に入るが、その後、日常の中で少しずつリーダーシップを発揮していき、外資系企業の本社の人事部門のトップとして活躍するまでに至る。仕事をする際に彼女が考え、心がけていたこととは。自然体のリーダーシップとは。


いろいろ考えさせられたこと、うなずいたこと、などあるのだが、なにより言いたいのは、この本はただ読むだけでも実におもしろい!ということだ。

自らを『おせっかいなふつうのおばさん(p235)』と言う増田さんの、しかし普通の人とは思えないほどチャレンジと展開に富んだ波瀾万丈の物語。異動の希望を出せば通ってしまい、思い切って挑戦したら受かってしまい、悩んでいたらその業界の大物に合う機会を得てしまう。どたばたと失敗もしながらも、他人の協力を得つつ少しずつ前に進んでいく。そこには、本人も気づかない自然な愛嬌や、気さくさ、率直さが大きく働いているのだろう。


「現場では、経営者だけでなく普通の人にもリーダーシップが必要である。」…このことに関して、増田さんと、経営学者である共著の金井さんの見解は一致している。ぼくも、このことはもっと共通見解になってもいいと思う。

このあいだ、なかなか自分の実力に自信を持てない、先輩や教員に頼りがちな学生に、「リーダーシップをみがきたい」「私にももっといろいろ任せてほしい」というようなことを言われたことがある。でも、それは順序が違う。リーダーシップは、「任せたぞ」とか「これはリーダーシップを身につけるための仕事だ」とかいうふうに与えられて身につくものではない。それではいつまでたってもリーダーシップは身につかず、自信も得られない、とぼくは話した。増田さんの言葉はもっと強烈だ。長いけど引用したい。

しかし、考えてみて下さい。「私はまだまだ」と言う人たちは、いつになったら自信をもって「もう大丈夫」と言えるのでしょうか。どうすれば「大丈夫」なのでしょうか。たとえば「私にはまだ部長は務まりません」と言う人は、自分には部長としての何が足りないのかを具体的に理解しているのでしょうか。
「自分はまだまだ」と自己理解している人が、成長に向かって努力しているのであれば、「まだまだ」という謙虚な自覚には価値があります。けれども、現状に甘んじてそこから一歩も努力していなければ、その自覚は謙虚なものとは言えません。失敗を恐れるあまり、会社や組織やチームに対して貢献しようと思わない人は、自分の可能性を出し尽くしていないわけですから、結果的に自分に対しても不誠実な態度をとっていることにもなります。
人生において、完璧な時機など滅多にありません。完璧な時機を待っているだけでは、人生はただ通り過ぎていきます。
…(中略)…私の経験にそって言えば、人生は見切り発車の連続です。(p244-245)

リーダーでないときから、社長目線で組織に改善できること、チームのメンバーになにか自分ができることがないか探して実践すること。完璧でない自分を受け入れ、しかし、「まだ自信がない」と言うのではなく、覚悟してリーダーシップを取ってみること。自分の不足していることを率直に認め、それを埋めようと行動と実践の中でもがいていくこと。そういう姿勢が「自然体」で器の大きなリーダーを生む。そして、そういう自然体の覚悟を持てた人が、次世代のリーダーを育てられる。
リーダーシップを身につけられるかどうかは、自信のあるなしでも、他人の承認でもなく、まさにその人がそうなりたいかと思うかどうかだ。一歩踏み出す勇気が、自分を変え、組織を変えられる。


同じ文脈で、だからこそ英語が不得意でもいいじゃないか、はっきりしない日本人でもいいじゃないか、それを認めたうえで埋めるような工夫や努力をしていけば、グローバルなビジネスで活躍できる素質があるはずだ、ということが語られる。例えば、英語が母国語でないこともプラスだった、という以下の言葉。

後々考えてみると、よく聴く(傾聴)、オウム返しにする(リピート)、言い換える(リフレーズ)の三つは、いずれもコーチングの基本スキルなんですね。リフレーズに関しては、英語圏出身の人に向かって、英語が非母国語の私が、「つまり、あなたの言いたいのはこういうこと?」と言うのはちょっと変ですけれども、それでも意識的にやっていました。そうすると、やがて「ヤヨイは話をよく聴いてくれる、言いたいことをよくわかってくれる」という評判が立つようになりました。(p196)

英語を社内公用語化することについていろいろ議論が盛んであるが、本質はそこではないのだ、ということをここまで明確に述べてくれているのはすごい。こうした、グローバルなビジネスで活躍するには、というあたりの話はたいへん説得力があって示唆に富んでいる。思わず勇気がもりもりと湧いてくる。


いつまでも、まだまだ成長しなくちゃならない、自信がない、と言っている若い人に向けた、力強いメッセージに富んだ一冊。読んで、一つでも自分の行動を変えてみれば、この本は、そこらのビジネス本や自己啓発本より、ずっと自分を高めてくれることは間違いない。