長野慶太「部下は育てるな! 取り替えろ!! : 勝つ組織を作るために (知恵の森文庫)」

焚書」と表紙にあり、かなり過激でうさんくさいと著者自ら述べるビジネス書であるが、実にこれがまっとうで、これのどこが過激で焚書ものなのかと、世間の組織のあり方を疑問に思わざるを得ない。
例えば、タイトルの、部下への接しかたについては、こう書いてある。結局自分でやろうと思った事しか人間は身につかない。だから、部下に上司ができるのは、見守って環境を整備し、動機づけをしてやることだけだ。…実にまっとうで文句のつけようがない話で、最近、落合さんの本を読んだり、頭はいいのだが努力の方向が違っている学生と接していたりしてとても実感するところである。若い人に、組織論を説いても、納得してもらえない。彼らの動機をしっかり捉えて、どういう方向で頑張れば自分の能力を伸ばしていけるか、について気持ちを奮い立たせてあげることが大事なのだ。これを「育てるな」と捉えるか、これも育てるうちと捉えるか、というところでこの本の読み方はだいぶ違ってくる気がする。
これだけでなく、部下とは酒は飲まずランチを共にするか金曜日にピザを出し「公共の福祉」について話し合え、出て行く人からこそ職場の問題点を聞き出せ、質問し期限を決めさせ部下の発言に重みを持たせろ、叱る時にはフェアネスをもって冷静に危機感を持たせろ、配慮しながら正論を吐き、いざとなれば会社のせいにせずに離れろ、など(詳細は書かないが)、そうだこれは大事だな、と再確認できるような提案が満載で、仕事のしかたを再確認できる。
同時にこの本は上司になるものの強い自覚を求めているのがいい。何でも経費で落とす事はしない。部下へのお金はけちらない。会議は自分以外の人の時間をたくさん奪うことを常に考える、など、上の立場になって慣れていくとタガが外れがちなところにしっかり注意を促している。「部下は育てるな!」と上司にとって都合のいいことを書いているようでいて、一方で上に立つものはこうあるべき、というところを強く打ち出している。
口当たりの良いビジネス書にはない切り込みかたで、ほんとうの意味での組織として動ける強さを語るこの本。目を開かされるところ、反省させられるところが多く、出色の一冊である。最後に、今大事だなあと思っているところを、心に銘記する意味で紹介しておく。

自分のことを振り返ってみよう。
あきらかな失敗ならともかく、人間、みんな自分が正しいと思って行動しているのである。
あるいは、非は認めるが、前の部分に対する言及がなければ物事の全体像を見失ったアンバランスな評価だと不満を持つ。
それが人間である。
そして、人間は自分に対する「フェア」には人一倍敏感になっている。自分に向けられた「アンフェア」は生涯忘れない。
あなただって忙しい。だからあなたのその苦言は有効な苦言でなければならない。にもかかわらず、あなたの部下が相変わらず「アンフェア」だと不満をもちながら聞いているのは、いかがなものだろうか?
そして、あなたも内心「いつかやつもわかる」と自分で納得しながら苦言を続けているのは、本当に成果の最大化に向かっていると言えるのか?
それはとても非効率なリーダーシップだ。
しかし、「フェア」だと部下が感じてくれれば、苦言の中身が仮に一部誤った理解に根ざしていたものだとしても、部下はそれを受け止める。
そして、フェアだと感じさせるには褒めることが一番有効なツールなのだ。(p158-159)