大澤武男「ヒトラーの側近たち (ちくま新書)」

この本を面白いと書くのは不謹慎かもしれないが。
それでもやはり、どういうメンバーが集まって、どのような力学が働いてあそこまで突っ走ってしまったのか、というところは興味があるところだ。


ゴタゴタと勝ち負けを繰り返し、違法な方法にまで手を染めた外部との闘争、そして内ゲバともいうべき内部闘争を経て、細かいところは任せた忠実な部下に助けられつつ、ヒトラーが政権を取る過程は面白い。
特に、政治においては先立つものは金なのはいつの時代でも一緒で、どういう人々が彼を支援したのか、どういうコネクションができてきたのかについても詳しい。狂信的な独裁者、というイメージと表裏一体の礼儀正しさを持ち合わせていた彼を気に入り、物質的・心的支援を惜しまなかった人々がいる。戦争がはじまってからの破滅に向かう時期の側近たちの動きも、「ヒトラー最後の10日間」という映画で見たように何とも言えない気持ち悪さがあるが、それ以前に、拒否反応を示す人もたくさんいた状況で助けてくれた人がいるからこそ政権を取れたということは、興味深く読んだ。


もちろん、良く知られた名前もたくさん出てくる。ヒムラーゲーリングゲッペルスら忠実な側近がいるだけでない。経済面ではドイツきっての専門家であるシャハト、軍事面でもロンメル、また破滅の寸前でも冷静に戦後のことを考えていたシュペーアら、空虚でやけっぱちではない、国民のための仕事をした人間もまたいたことが描かれている。
ヒトラーも、ユダヤ人虐殺の細部にまで指示を出していたわけではなかろう。この本にも書いてあるように、彼の意思を先読みして「やりすぎてしまった」部下がいてこその、あの事態だったのかもしれない。独裁者の言うことに正面切って反対はできなくても、下の方でこっそり指示を裏切ってごまかすくらいのことはできる。上司の言うことは言うこととして、冷静にどういうことが国民のためにいいのかを考える人間がもういくらかでも多ければ、全体的なバランスが取れて、現実に起こってしまったところまではいかなかったのでは、ということも多いように思われる。