山本大輔「心と遺伝子 (中公新書ラクレ)」

行動遺伝学という分野がある。さまざまな動物の行動がどのように遺伝的に決定されているかを探っていく、といったところだろうか。

この本は、その行動遺伝学の最新(といっても5年前の本なので「やや」がつくかもしれない)の知見を、バリバリの現役研究者である著者が紹介していく。ショウジョウバエやラット、線虫などの食事、交尾、子育て、睡眠などに関わる遺伝子とその役割に関する研究の数々。
以前に読んだこの本に比べると、トピックに太い流れがあるわけでもないし、新しい情報が次から次へと出てくるので初学者にはわかりにくいかもしれない。しかし最新の知見とともに、実際に用いられている研究手法、そこに至るアイディアなどがわかりやすく盛り込まれており、研究をかじっている人には大いに参考になると思う。エピジェネティクスなどの説明もとてもわかりやすい。個人的には、遺伝学のスタンダードな考え方の道筋とアイディアが研究にいかせると感じた。

特に興味を引かれたのは、行動遺伝学のモデルケースともいえ、現在の概日リズム研究の先駆となった、ショウジョウバエの概日リズム遺伝子の研究の話。古典的な話なのかもしれないが、その研究の道筋や発見に至る考え方、結論は興味深いとともに、とてもよく頭に入ってきた。