田上八朗「皮膚の医学―肌荒れからアトピー性皮膚炎まで (中公新書)」

皮膚科の先生が書いた、中公新書らしい、硬派な皮膚病の入門書。
あとがきに、面白いことが書いてある。

いろいろな臓器の病気をあつかう臨床医学のなかで二〇〇〇以上と、皮膚科はもっとも、その病気の数が多い科です。しかも年々、新しい病気の記載がふえつづけています。ひとつには、皮膚がだれからも見える臓器であるため、「そんなものが?」というものまではいっているためともいえるでしょう。(p268)

そういえばそうかもしれないが気づかなかった。外から見えるだけに、さまざまなものが病気と診断される。内蔵はさらされないような外部要因にも皮膚は常にさらされている。病気の数が多いのも、そして治療が難しいのもうなづける。
では実際、のっぺりとしていように見える皮膚は、どういう構造をしているのか?そこを知ることは病気の起こり方を知ることでもある。
この本のはじまりは、角層・表皮・真皮と積み重なった皮膚の構造とそれぞれの組織の特徴、重要な機能などを紹介する序章。そこから、段階を追って、肌荒れや湿疹、アトピーなどについて詳しく述べていく。
この本でも、アトピーをはじめとして、皮膚の病気がどれだけ免疫系の異常や過剰な働きと深い関連を持っているかがたびたび語られる。免疫学が発達して皮膚の病気がよくわかるようになった部分も多いだろうし、皮膚病以外でも、そういうことはとても多いはずだ。
著者は、アトピー性皮膚炎に関して、科学的な裏付けのない民間治療のようなものがあふれている現状にも一言申している。最近自分も手足の皮膚の異常をどうしたらよいものかといろいろ調べてみたりしたが、アトピーに関していえば、水が悪いだの栄養バランスだの油を取らなければいいだの、じつにたくさんの、互いに矛盾するような多くの治療法が言われているものだと驚いた。
しかし、同じような皮膚の病気でも、原因はさまざまだろうし、ひとくくりにはできない複雑な経過もあるだろう。著者も書いているようにすぐなおる、というようなものはなくて、『着実なあゆみしかない』ということを頭に入れておくのは大事なのかもしれない。
きっとこの本は、『アトピーはこうして治った!』というような本に比べると読む人も少ないだろう。しかし、学者として、医者としての立場からかっちりと書かれていて、皮膚の病気に悩んでいる人には基礎的な考え方を与えてくれる一冊になるだろうと思う。
10年前の本でありながら、大枠はそれほど古びていないと思う。研究者、そして臨床医としてやってきた経験を現場感覚をもって書いてくれているのもよかった。突飛で頭のいい海外の科学者仲間や、自分の先輩方の歴史的な仕事についても丁寧に書かれていて、しかも面白かった。まじめさのなかに面白みのある人柄が本から伝わってくる。