松岡正剛「多読術 (ちくまプリマー新書)」

個人的に、本について語る本が、無条件に好きである。そうでなくても、この本はおもしろい。
本書は、「千夜千冊」で精力的に本を読んだ経験を開陳し続けている著者が、読書に対する思いとその体験を語る一冊。タイトルはたくさん本を読むためには、みたいなハウツーものを想起させるが、内容は全く違う。
一冊の本に触発されて、別な本へ手を伸ばす。次から次へと分野や著者をずらしつつ本を読んでいき、一つの世界観を得ていく…。こういう、本が好きな人なら思わずうなづいてしまうような「世界が広がっていく感じ」は、著者の読書にとっても非常に重要であるように読めた。
だから、こういう読書において、『何かたくさんの本とネットワークしていく可能性をもった、いわば「光を放っている一冊」というものが必ずあるんですね。(p152)』と著者が言うのもとてもよくわかるし、本棚に本をどう並べるかを大切なことを思っていることなども、とても納得がいく。
つまりは、多くを読むことを目的とするのではなく、複合的に数多くの本を読んでいくからこその楽しみがあるということだ。そして、そうやって本を読んでいくのがどのように楽しいのか、どうすればもっと楽しくなるのか、ということを語ってくれているところに、本書の肝がありそうだ。
具体的には、例えば、たくさん読んでいくなかで、『自分の「好み」を大切にする(p130)』こと、『そのような「好み」の多様性を維持できるテイストの工夫(p132)』をすることなどは自分の読書スタイルを考えるうえで参考になる。また、そうしていく過程で気づかない「好み」を発見していく面白さというのも、確かにあるなと思った。

もう一つ、普段の仕事に関連づけて考えたこととして、著者の次のような言葉がある。

「書く」と「読む」とは、複線的で、複合的で、重層的な関係にある行為なんです。(p78)

この言葉によく表れているように、著者は読書が、「書く」という行為とリンクしていることをしばしば強調する。たくさんのこれまでの知見を論文を「読む」ことで頭に入れ、そこに自分の実験結果を交えて論文を「書く」ことでアウトプットする仕事をしているものとしてこれを読むと、著者(や、「読む」と「書く」をリンクさせることを大事にしている本好きの人々)の読書のスタイルはもはや「研究」といってもいいようなものだなと感じる。
もちろん、狭い意味での「研究」よりも、読書で得られる楽しさや自分の中に作られる世界観は実に幅広い。荒唐無稽だったり、自分にしか説明のできないような本と本の関係であっても、それは自分にとっての発見であり、誰に審査されることもないし、実に自由だ。それが、まさに読書の魅力であり、何かを新しく生み出す仕事をしている人にとって役に立つかもしれない部分だと思う。
あとがきにも書いてあるように、同じ読書についての本であっても、「本を読む本」のようなロジカルさはこの本ではあまり強くない。ただ、だからこそ、著者が本にのめりこんでいく過程なども見せてもらえることで、本には人それぞれ楽しみ方があり、それは自分で見つけていけばいい、というメッセージはとてもよく伝わってきた。さらなる読書欲をかき立てられるいい本だ。