森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)」

文庫になったらぜひ読んでみようと密かに覚えていた一冊。京都の大学にて、『黒髪の乙女』と、想いを寄せ後を追い続ける『先輩』。二人の前に次々と奇々怪々な人々が現れ、珍妙な事件が引き起こされる…。
主人公の女の子とその周辺の人物のキャラクターの立ち具合もさることながら、言葉づかいが面白すぎる。小説の中とはいえ、今どき、『ひょこんと起き上がり(p275)』、『目玉焼きをじうじう作り(p275)』、さらには『合点承知でございます(p297)』などと言う女の子がどこにいましょうや。リズムよく読んでいると時を忘れる魅力がある。
そんなリズムの文章が、京都の学生街を舞台に繰り広げられる、はちゃめちゃなストーリーを紡ぐ。頭の中にいろいろな風景が浮かぶ。小説の魅力ここにあり。

たしかに私の才能の宝箱は払底気味であった。だがしかし、唯一残されていた最大の能力を私は忘れていたのだーー妄想と現実をごっちゃにするという才能を!(p310)

ちなみに、解説は羽海野チカさんの絵になっている。文庫版だけとのことだが、これもまたよい!