水木しげる「猫楠 南方熊楠の生涯 (角川文庫ソフィア)」

だから私が、熊楠の妖力の凄さを、今、漫画で甦らせようとしているんです。(p419、水木しげる中沢新一の対談より)

水木しげるが、世紀の大奇人、大生物学者南方熊楠を描く。妖怪が現れ、怪しい森に魅入られ、猫が人間とぺらぺらしゃべる。これまで水木しげるさんのマンガは恥ずかしながら読んだことがなかったが、粘菌や妖怪、密教や神話などを真面目に追求した熊楠の姿を、そのわけのわからなさも含めてマンガにしてしまえるのは確かにこの人しかいなかったのかもしれない。
個人的には、和歌山で静かに粘菌を見ていたようなイメージがあった熊楠だが、たくさんの友人や子分とともに日々ドタバタと楽しくやっていたような様子もこの本では描かれている。弟との確執や一人息子の病気など必ずしも恵まれなかった哀しい境遇もありながら、破天荒で楽しい研究生活ぶりが共存していたのが実際のところだったのだろうし、このマンガでそう描いてあるのはとてもいいなと思った。
南方熊楠の研究の堅苦しくないようなところ、異次元と通信していたような突飛な人間としての姿を面白おかしく読める。

これまでの熊楠関係の記事と合わせてどうぞ。
中沢新一「森のバロック (講談社学術文庫)」 - 千早振る日々
「クマグスの森展−南方熊楠の見た夢」 - 千早振る日々
鶴見和子「南方熊楠 地球志向の比較学 (講談社学術文庫)」 - 千早振る日々