ピーター・バーンスタイン「リスク〈上〉―神々への反逆 (日経ビジネス人文庫)」

こちらの本で紹介されていた本。紹介されていた金融・投資系の本の中でも興味を引いたので、読んでみた。帯に「勝間和代推薦!」などと書いてあると、資産形成に役立てるような有益さを求めてしまわねばならないように思えてしまうが、それはこの本の一面に過ぎなかった。
この上巻では、古代ギリシャにおけるギャンブルやサイコロゲームにおける確率を研究した人々の話からはじまり、神の呪縛から人間が自由になったルネサンスに至ってリスクや確率の概念が本格的に花開いてきたことが語られる。
今ではいろいろな分野で使われているこういう考え方は、基礎的な数学のようにずっと昔からあったわけではなく、科学と同じように少しずつ発展してきたことがよくわかる。いきなり本格的な話に入るより、こうして、概念が確立された歴史の順に追って読んでいくと、とても頭に入りやすい。歴史を学ぶ効果といってもいい。
未来を確率でどのように予測したらよいのか、そして、現在ある事実をどのように測定することで未来を予測するための確率を導けばいいのか。株価が上がるか下がるか、次のレースはどの馬が一着になるか…という現金な話題に代表されるように、人間は未来をどうにかこれまでのデータから予測したがるものである。その性みたいなものと、題材はそれぞれあれど、その問題に挑んだ人々の歴史がこの巻のメインである。
そうした試みの中で一番興味を引かれたのは、全てを調べることはできないくらい大量のものの性質を、その一部について調べることにより推測する手法、いわゆる「サンプリング」の手法の確立についての歴史だ。工場で平均してどの程度の欠陥品が出そうか、限られた情報からいかにして全体を予測するか、といった問題がどのように解決されていったのか。 ド・モアブルやガウスら、統計学で出てきた聞いたことのある人物が登場し、それぞれ研究の目的は異なりながらも、どこかで重なり合う問題意識から現在にも通じる確率予測の方法が編み出されていったことが語られる。科学論文にも常識としてでてくるような正規分布標準偏差、「有意」という考えに潜む意味が、あまり見られない歴史的な背景という側面から頭に入ってくるのがよかった。
この本で、歴史的にはだいたい1900年くらいまで。下巻をさらっとめくってみると、さすがにここ100年の話になるだけに、リスクマネジメント、投資理論に関する話が本格的になりそう。