伊藤章治「ジャガイモの世界史―歴史を動かした「貧者のパン」 (中公新書)」

中公新書には、「コーヒーが廻り世界史が廻る」のような、栽培・園芸作物と世界史についての面白い本が多くあるが、そのレパートリーに新たに、興味深い一冊が加わった。副題にあるように、その栄養価で貧しい人の暮らしを支えたジャガイモにまつわる挿話をさまざまに収めた本である。
南米のアンデス生まれのジャガイモが、ヨーロッパ各地にいかに広がり、栽培されるようになったか、そして日本にまで伝わってきたか。ヨーロッパにもすぐに広がったわけではなく、はじめはジャガイモの栽培や食べることに関して迷信や偏見がつきまとった、という話は知らなかった。当時の為政者が、国の栄養状況を高めるためにさまざまな施策を打って作らせたという経緯もまた面白い。
もちろん、それだけで多くの人に短期間で食されるようになるわけはない。ジャガイモの栽培の簡単さと、その栄養とエネルギーの豊富さが、食べるものに困る人々に大きくアピールしたのだ、というこの本を貫く主題には納得させられる。産業革命、戦争、開拓…食べるものに困るようなさまざまな歴史の一場面で、ジャガイモが人びとを救ってきた。その食べ物としての力に目をつけて積極的に広めたり、栽培したりした偉人たちがいた。
新聞記者としての経験から、実際に世界の各地に足を運び、ジャガイモに対する人びとの思い入れや語られてきた歴史を聞き取った著者のメッセージは、読者にしっかり伝わるものとなっている。一つ一つのストーリーの切り口がそれぞれ新鮮で、予想以上に面白かった。