ドストエフスキー「罪と罰〈中〉 (岩波文庫)」

中巻に至って、事件を起こすに至った主人公の思想がほぼ明らかになる。家族との再会もつかの間、離れてしまう心。
と同時に、次々と主人公の周囲にあらわれる怪しい人間の数々…。実のところは彼らのほうが、社会的にまっとうな、いわゆる普通の人間なのかもしれないが、主人公とともにここまで読んできたものにとっては、どの人物も癖のありそうな、腹に何か持っていそうな印象を受けてしまう。
こんな具合に、読むものをも人間不信にさせるのは主人公の心情の揺れが実に良く書かれているからなのだろう。そんな中に現われる救いのようなものの存在が、どちらかといえば暗いムードの物語のなかに違った色を加えている。
会話に出てくる比喩や寓話が、キリスト教的にはどういうことなのか、きちんと説明してくれる解説が面白い。なるほどなるほどと納得しながら解説を読み込んでしまう。