竹内薫「科学嫌いが日本を滅ぼす」[rakuten:hmvjapan:11741057:image]

「サイエンス」「ネイチャー」と言えば科学者でなくても知っている二大科学誌である。本書は、多方面で活躍中のサイエンスライターが、この二大科学誌の創刊の歴史、少しずつ違うコンセプト、それらに載せてきた科学者たちのスキャンダルなどを語りつつ、日本の科学について考えていく。

ちょっと大きく出た印象のあるタイトルとは異なり、中身は極めて着実に調べた事実から論じていてためになる。文学にも造詣が深い教養人であった科学者たちがイギリスではじめたネイチャーと、全米科学振興協会(AAAS)と合流するまで軌道に乗らなかったアメリカ生まれのサイエンス。ジャーナリズムの精神が息づくネイチャーと、アメリカの科学政策にひと言申すサイエンス。こうした詳しくない人にもとても分かりやすい対照は、世界の科学がどういう動きをしているのかが見えやすくなるいい題材だ。
興味深く考えさせられたのは、世界の人に認められノーベル賞の対象になるには国際誌に載っている必要があるのだが、ではどういう雑誌に載るのが多いのか、という話である。新しい知見であるほど、理解されるのが難しい。そういう意味で、ネイチャー誌にも査読がなかった時代があり、現在の激烈な競争の末掲載が決まるようになった経緯がありながら、それでもこれまで、正式に査読を経ていない大発見が数多くあったという事実はなるほどと思わされた(p39)。また、日本人が世界の人に結果を知ってもらう際、海外の雑誌よりも敷居が低い「日本で発行され、日本人が編集している英文科学雑誌」の価値は今でも高い(『そういった「和製」の英文科学雑誌に発表された論文であっても、それが英語で読めるという一点において、世界に充分に通用し、ノーベル賞の受賞につながる(p153)』)という指摘も、盲点であるように思った。
実際、自分の属している学会の出している雑誌も、真の国際誌というよりは、日本人への敷居を低くして国際発信をしやすくしている側面が強い。それはそれで、とても価値があることなのだ。

いろいろ面白いことを考えさせてもらった本になった。