山口周「天職は寝て待て 新しい転職・就活・キャリア論 (光文社新書)」

筆者は、幸せな職業人生を歩むためには、転職活動そのものを表面的にうまくこなすよりも、実際に転職活動に至るまでの、ごく普通の日常をどのように過ごすか、あるいは転職後しばらくして陥りがちな落とし穴をどう避けていくか、といった点のほうがずっと大事だと考えているからです。(p19-20)

あまりにもっともなことを主張するこの本。ある人と一緒に仕事をしたい、という気分になれるかどうかが転職の大きな部分を占めているという話はよく聞く。年収や待遇ではなく、自分が何をできるか、どういう時、どういう人々と仕事をしているときに幸せを感じるのか、が仕事を考えていくうえでの鍵であり、そういう面で満足できる仕事がすなわち「天職」であるとすれば、普段仕事をまわりの人とするなかに、天職へと至るヒントがあるのは納得ができる。「石の上にも三年」という言葉に企業の側のうさんくささを感じていた一方で、転職を経験していくなかで、それぞれの職業の面白さが3年程度やらないとわからないのではと感じてきたと言う筆者の言葉はとても正直である。
一つ一つはばらばらに見えるかもしれないが、幸せな仕事をするための考え方は、極めてシンプルな、スタンダードなものだ。自分が常に天職にたどり着いていない気がしている人々に、今の仕事を大事にしてもらう、という一見遠回りながらも大事なことに気づいてもらうのは難しい。この本は、いろいろな考え方、エピソードから、少しでもそれに気づいてもらうきっかけになればと筆者が考えて苦労しているのが感じ取られる。
逆に言えば、「就職」という最初の一歩が難しいのが、「至るまでの、ごく普通の日常」が仕事と結びつきにくいことにあるのかもしれない。満足であろうが不満であろうが、とにかく仕事をしないことには「仕事観」みたいなものは醸成されないものだなと思う。

20〜30代前半といった時期に「自分らしさ」を追い求めて自己肯定しようとする度合いが高ければ高いほど、後になって自己否定せざるを得ない状況に追い込まれてしまう可能性が高い。であれば、逆に若いときは不自由さ、自分らしくないことにも「ある程度」は耐える、ということも必要なのではないか、と私は考えています。(p89)

この「ある程度」を見出すのがまた難しい。自分だけで判断するのは難しいだろう。自分のキャリアをつくっていくにあたって、同じ仕事以外の、親身になってくれる知人がどれだけいるかも重要だ。高校くらいからの知人のコミュニティだと、けっこう似通ったキャリアの知人ばかりになってしまうが、そこで異質な人を知人としてもっておくと、自分の仕事のやりかたに対する価値観が深まるのではと思う。そういう知人がいてくれてありがたいと個人的には感じているが、仕事をする上で格別必要ではないという考えの人も多いかもしれない。「寝て待て」ではないが、無駄と思えるようなことが、あとにつながることはとても多いのではないか。