櫻田大造「大学教員 採用・人事のカラクリ (中公新書ラクレ)」

良心的な、勉強になる良い本である。
高学歴でもワーキングプアになるよ、就職できないよ!とただただ煽るのではなく、被害者(?)の立場から誰かを告発するのでもなく。採用してほしい側、採用する側の両方の考えを頭に入れつつ、多数の引用文献とともに冷静に大学教員の採用・人事について考えている。
人事委員会と教授会という流れのこと、さらには一本釣りと公募の違い、公募と見せかけてコネ採用の場合があること、など採用側のプロセスや都合をきちんと説明してくれている。これから大学教員を目指そうという人にこうした基礎のレベルから事情をきちんと説明してくれている類書はあまりない気がする。また、文系、理系というより、一般的にはこうですよ、特殊な場合もこうあります、という感じでなるべく誰にでも役に立つ書き方で書かれているのもよい。また、これから将来的に大学や教員のありかたは変わるかもしれないが、この本で書いているような採用のしかた、事情はあまり変わらないような気がするし、長く役に立つ本であろうと思う。

通読して強い流れとして感じたのは、『業績は多いに越したことはない(p113)』ことと、『そのような仕事(注:雑務のこと)を嫌がらずに、自分の相応分はこなせるという適応性は、今後もますます重要になってくるだろう。(p102)』ということだ。コネやら性格もあるだろうが、この2点は、これからもどんどん忙しくなり、業績を挙げにくくなるだろう大学教員の世界でベースとして抑えておくべきと感じた。

どうにも、ウェブ上では、大学教員になるのは厳しい、過当競争だ、将来は暗い、という意見が多い。それはそれでわかるのだが、なるのがゴールではない。なるのが大変でイメージできないのはわかる。しかし、既になっている人が後の人のことを考えてない、とかいう論調はある一方で、なったあとどうしたいか、という議論がないのは、なんだかなぁと思う。現状を憂い問題提起するのと同じくらい大事なのは、教員になった人間が、なる前と同じくくらいに自分を律し、後進への道を開けるように全力を尽くすこと、自分もそれをイメージするとともに、互いにそういうありかたを求めていくことだ。
この本は、教員になったらどのように大変か、どういうことを頑張るべきか、というところも射程に入っている。なればいいというものではない。なった後を見据えて、どういう仕事のしかたをしていきたいかを問う。自分が実際にそういう立場になれたときに、どうするのか。それを自分でイメージできるようになるかどうかが、大学の問題点に関して当事者意識を持てるかどうかが、アカデミックポストへの道を少し開くのではないかな、と思った。