小出伸一「世界企業はここまでやる! (ゲーテビジネス新書)」

世界に工場や支社を持つことが真の意味でのグローバル企業ではない。人件費の安いところで生産し、世界規模で効率を追求するからといって、グローバル企業と呼ぶかはわからない。
真のグローバル企業とはどういう文化を持った企業のことを言うのか?について、ヒューレットパッカードの社長が語る。
例えば今自分がいる大学の研究という場だって、まさに世界が戦場のグローバル企業であるべきだ。主宰者になりたいと思うのであれば、世界企業がどのような動き方をしているのか、について考えるべきではないかと思ったのが、これを読んだきっかけである。

さてこの本、刺激に富んだ提言がたくさん聞ける面白い本だった。例えば冒頭でこういう内容が出てくる。

グローバライゼーションで効率を追求する一方で、ローカルで重視しないといけないものに関しては徹底してローカライゼーションを追求する。効率を追求できるものは標準化にこだわり、クリエイティブな部分は徹底して創造性にこだわる。しかも、これを双方で極端なまでに振り切る。これが、グローバル企業なのです。(p16-17)

上の文に表れているように、いまや、効率を追求するだけではやっていけない。消費者のレベルでは徹底して細やかなサービスが求められたりする。このように「極端なまでに振り切る」のは頭をすごく使うし、とても疲れるだろう。人間は自分のできることしかできないもので、なるべく楽に一つの方針でいくほうが心地よい。しかし、いまや生き残るには、企業としてそこまで両極端をやる覚悟を持つか、というところが重要になってくるという意見はもっともだと感じた。
そうした振り切り方は、すべての場面であらわれてくる。結果を残すことを重視するカルチャー、効率よくスピードのある会議、徹底した危機管理…どれも、説明責任だとか環境配慮だとか社会への貢献だとかの外見を単視眼的に整えようとして、互いに足を引っ張り合うような無駄な仕組みづくりに精を出している従来の日本企業ではとてもなし得ない。今自分がいる大学にしても、なんだってこう面倒なほう面倒なほうにいくのだろうと目の前が暗くなる気分だ。

こういう、グローバル企業としての文化を醸成し、世界と戦える企業にするには、現場から雰囲気を作っていくのももちろん大事だとは思うが、やはりトップが先を見据えて、リスクを取って変えていくしかないのだろうと思う。同時に、自分がそういう立場になった時にポリシーをもって動けるように、世界を意識した職場作りを考えていきたいものだ。
著者は、ドライと思われがちなグローバル企業だが、それでも企業への忠誠心は出てくるものだ、という。独立心があるからこそ会社を大切に思う気持ちと言うのもある、という気持ちはわかる気がして、後輩にはそう思ってもらいたいなと感じて、読めて良かったと思った。最後にそれについて書いてある一節を。

仕事に対して自分が心から満足でき、お客さまからも評価されて、自分の成長が実感できる。そういう状況になって初めて、自分が所属する会社に対して尊敬の念や、いわゆるロイヤリティのようなものも生まれると思うのです。
だから頑張れる。逆に、それ以外に、どのようにして会社や仕事に対する思いを醸成するのでしょうか。
ハイパフォーマンスカルチャーがあるからこそ、自分を納得させられると思うのです。(p140)

逆に、「ハイパフォーマンスカルチャー」をきちんと見えるようにするのはとてもたいへんだ。どうしても、年上の人をかばったり、ポーズとして年功序列を示しておかねばならないときがある。いきなりそういう情実を排除することができないのが、昔からの日本企業(大学も含めて)に若者が惹かれない一つの理由かもしれない。