越澤明「後藤新平: 大震災と帝都復興 (ちくま新書)」

東京市町として、関東大震災後の帝都復興事業で有名な後藤新平。そこに至るまでのキャリアと培った人脈が、彼に卓越した先見性と実行力を与えた。東日本大震災で「復興」という言葉を聞かない日はなかった昨年を過ぎ、真の復興とはどういうものかを冷静に考える指針となる一冊。

なにせ、都市計画の専門家で、後藤新平の事業について深く研究してきた著者である。この本に詰められた情報量の大きさたるや。そこから考えうる都市計画のあり方についての示唆もまた、大きい。都市計画というとあまり政治的なものと関係ない、復興や新都市の設計といった場が与えられて役に立つ分野かと思っていたが、『植民地で都市計画を実施する能力は、植民地の統治能力の有無を示すバロメータであった(p160)』という考え方にはうならされた。見せかけだけ良くしても、と実質を重んじる人がいるのも確かだが、見せかけはやはり大事なのだ。見せかけは、その人の政治力を量る一つの指標なのである。

読みでがあるが、あくまで一般向け新書として、後藤新平の人間と仕事のしかたについてもエピソードばかりにならない程度に挟んであるのもまたおもしろかった。後藤新平の場合、その生涯と、仕事のしかた、成し遂げた業績がすべてリンクしてくる。この本は、そのあたりをうまく示してくれていて、とても興味深かった。特に、後藤チームとでもいうべき、植民地統治時代に培った官僚および技術者の人脈が次々と活躍していく様子は痛快ですらある。そんな部下や同僚の悪戦苦闘・活躍ぶりをページを割いて紹介してくれているあたりもまた、この本のもう一つの魅力になっている。

そもそも政治家と思っていた後藤新平が、東北の寒村を出たあと医師としてそのキャリアをはじめていったことをはじめて知った。医師から、公衆衛生の仕事へ、その後仕事ができることが認められて台湾、満州へ。その過程で、児玉源太郎ら、ほんとうの意味で仕事ができる人々の薫陶を受け、後藤はその実力をさらに高めていく。
医学という科学を知っているがゆえにできる、プラクティカルで実行力ある政治。台湾統治を「科学的政策」に則り行うべきだ、と後藤が説けたのは、この医師からはじまったキャリアならではである。

後藤新平の生涯を読んで思うのは、どこからでも、どこにいても、できる人はしかるべき仕事を任されるものだな、という感慨である。任された仕事に全力で取り組むことが、また新たな人生の展開につながっていく。