佐藤博樹・武石恵美子「男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット (中公新書)」

2004年刊。男性の育児休業について、なぜそれが必要か、どうすれば取得する人が増えるか、について、アンケートのデータなどから概観し、今後への展望を述べる。少し古い本だが、全体として問題となっているところ、今後の課題などについては変わっていないと感じた。

そもそも、男性の育児休業が必要なのか。妻が仕事をしていなければ、男性は仕事に専念すればいいではないか。男は仕事、それは価値観の問題で、否定できないのではないか。そういったひっかかる思いは常にあったが、この本は明確にそれを否定する。
その論拠としてなるほど、と納得したのが、『共働きの夫婦のうち、妻だけが育児休業を取得していれば、妻が勤務する企業は、夫の勤務する企業に比べて夫婦の育児コストを過重に負担していることになる。(p9)』というものだ。女性を雇用する企業ばかり子育てコストを負担するのは公正でない。それを続けていると、どの企業も男性を優先的に雇用するようになるだろう。この、社会全体を広く見た、公正とは何かを考慮に入れた議論は、社会学ならではというか、とても好ましいものに感じる。

男性の育児休業に焦点を当てる話の前に、2004年度現在の育児休業の規定を確認できる。簡単に調べてみたところ、特別の場合を除き一回しか取れないという規定、所得保証の制度などは、今とほとんど変わりはないようだ。しかし、「相手が育児に専念できる場合は取れない」という規定はなく、また会社によってそう決めているところも減ってきているようだ。

こうした育児休業の規定の確認をしたうえで、実証的なデータから、収入ではなく、『育児や介護は女性が担うものという役割分業意識(p92)』や、男性が取りにくい雰囲気などが男性の育児休業の取得を妨げているのでは、と著者らは結論づける。
特にそういう雰囲気を作り出すのに問題なのが、今はどうかわからないが、2003年の調査で、第一子出産後の時点で八割弱は専業主婦であり、七割の母親は仕事をせずに子育てをしているというデータだ。この現状が、男性の育児休業を特別視することにつながっている。
どうにもこれは驚きだ。周囲にも、子どもを産んで仕事をやめる女性は多いが、これだけ収入が保証されづらくなっている世の中でそういう考えになるところは、やはりまだよくわからない。自分が妻の収入なくして生活が成り立たないのでしっくりこないだけで、実はそれだけお金に余裕のある家庭が多いのか、それとも「育児は女性の役割」という意識がそれほど強固なのか。

制度の問題、企業の取るアクションの問題、職場での雰囲気作りの問題…この本でも説得力をもって書かれているように、いろいろこの事態を解決していく方法はあるだろう。北欧のように、制度的に男性が取るのが得になるようにしていく手もあるだろうが、それは日本だとあり得ないなと思う。一番着実であり得る変革は、いま必要と考える男性が率先して育児休業をとり、同時に母親も働く姿を見せることで、育った子ども、つまりは次世代から、「育児は女性の役割」という意識を薄れさせることだろうと思う。