関一夫「赤ちゃんの不思議 (岩波新書)」

「赤ちゃん学」の方法、最新の知見までを紹介する一冊。おもしろい。

赤ちゃんは、生まれたてのときから、我々が直感として感じているよりもずっと、高度な認知能力を持っている。このことが次々と実験的に示されつつある。

赤ちゃんは、(大人的に)魅力的な顔が好きであり、利他的な行動とそうでない行動を区別している(ように見える)。また、テレビと現実の区別、ライブと録画の区別ができる(ように見える)。大人だからできると思えるようなことが、実は生まれてすぐからできる(ように見える)。こうした、驚きの事実が明らかになっている。

この本のいいところは、「赤ちゃんもこんなことができる!」とセンセーショナルに書くのではなく、赤ちゃんを研究することの限界などを謙虚すぎるほどに論じていることだ。上に書いた段落で「ように見える」と書いたようなのがまさにそうで、「実験からは、こういう解釈ができる」ということが言えることと、「赤ちゃんは、こうできる」と断言できることとにはかなりの差がある。それがまさに、科学ということでもあり、大人でなく赤ちゃんを研究することの難しさでもある。

しかし、そうした謙虚な書き方をしていても、やはりこの本で紹介されている実験から出た結果はかなり衝撃がある。つまり、この本から得られる知見が、我々の先入観に訴えかけるところはかなり大きい。
あるものを見せられて、興味をもったのか面白くなかったのか、理解できたのかできなかったのか。赤ちゃんは大人と同じ言葉を話せないから、どう感じているかは正確にはわからない。しかし、それが「注視時間法」という実験によって示せるのだ、という研究があること。さらにはそこから導きだされる、赤ちゃんがとても小さい頃から大人が理解し興味を持つようなことに同じように反応しているのだ、という結論は素直に面白い。
赤ちゃんが顔色をうかがって行動しうること、自分の行動の結果何かが変わったことを認識していること。どれも実験的に「そう考えられる」と言えるに過ぎないが、我々にもっともと思わせるだけの、生物学的な意味があるのが説得力を与えてくれる。赤ちゃんは、その『小さくても強い力(p191)』で周囲に適応し、いろいろなことを学んでいく。自分で実に奥深く、考えさせられる研究である。