西川伸一・倉谷滋・上田泰己「生物のなかの時間 (PHPサイエンス・ワールド新書)」

理化学研究所のバイオサイエンスを担う3人の研究者が、生物の時間について語る。
それにしても難しい本である。一般向けの新書であるし、決して難しい言葉を使っているわけではない。しかし、現状の解説もあるとはいえ、話していることは「何がわからないか」「何がわかるとおもしろいか」である。わからないことを話しているのだから、多少難しくもなる。一方でそのあたりに、せっかく対談をやるならとことん論じよう、という研究者の気持ちの入りかたが見えて面白かった。
もちろん、研究者としては、「どういうことがわかっていないか」は何より重要である。この対談の3人、特に若い上田さんの、ものの見方の時間的、空間的に広いことはすごいなと感じた。それは彼の論じ方によく表れていて、生命の仕組みを知る研究について、「今はこれしかできない、しかしこういうアプローチならできる。5年先ならこういうことができているはずで…」という話し方をする。これは、とにかく目の前の謎を追い、成果を求めるぼくのような一般の研究者にはなかなかできない見方だ。
将来の技術的・概念的な進歩について、見通しを立てて考えている。さらには、生物学者でありながら、物理学的にはどういう研究が現在行われつつあるのかについても精通しており、生命科学の将来の進歩について、オーラのあるポジティブさを放っている。
ものをよく知って、よく考えているからこそ、今の世界的な技術でできる、最先端ぎりぎりを攻めていくことができる。すぐにできるとは思わないが、そういう思考法はぜひ見習いたいと感じた。

生命の形態、時間のありかたに潜む進化の痕跡。どういう条件のもとに、どういう必然性があって生命がこういう多様かつ精緻なものになってきたか。それについて、さまざまな側面から考えるこの本は、とても刺激的で、頭をぐるぐる回転させてくれる。