モース研究会「マルセル・モースの世界 (平凡社新書)」

あとがきにも書いてあるように、モースと言えば、大森貝塚の人かと思っていたが、違うようだ。あちらは、エドワード・モースという生物学・博物学者。この本のモースは、社会学者・人類学者のマルセル・モースである。

「贈与論」という主著のタイトルくらいは知っている。非西欧社会の贈り物の習慣について考察することで、ものを所有するとは、交換するとはどういうことかについて考えを巡らせた書であるはずだ。
この本では、「贈与論」に限らず、人類学者としてのモースの活動を幅広く紹介し、その後世に与えた影響や、業績についてが語られる。少々専門的であり、言葉遣いも固いが、だからこそ浅いところにはとどまらずにモースの考えなどについて良く知ることができる、よい入門書となっている。

資本主義とは距離を置いた、しかもソ連型でもない社会主義を構想した活動家でもあったモースの考え方が、冷戦が終わった現代だからこそ示唆に富んでいることがよくわかった。
利益ばかりを求める自己中心主義でもなく、気前が良すぎるお人好しでもなく、現実と理想が程よい配合でまざった社会の構想。自著の執筆にこだわらず、他の学者とのコラボレーションを重んじたモースの生き方そのものが、そうした社会のありかたを体現していたというあたりは、興味深い。

読んでみてやはり、「贈与論」が気になってくる。