塚谷裕一「植物の「見かけ」はどう決まる―遺伝子解析の最前線 (中公新書)」

実家の本棚にしまってあるのを発見して再読。なぜまた、こういういい本を実家に押しやってしまったものか。本の価値の判断は、意外とそのときの気分だったり、短絡的である。
著者、弱冠31歳の新書である。これだけでも驚きだが、実験植物アラビドプシスとその研究に関する基本的な紹介本として、類のない程よくまとまっている、実に中公新書らしい一冊になっているのはすごい。もちろん最新の知見はこの本の何歩も先を行っているが、変異体について、解析のしかたについて、など、植物の研究とはこう進むという内容については、15年を過ぎた今でも十分に通用する普遍性がある。
研究をはじめる前に読んだときにどういう感想を持ったかは覚えていないが、今読むと、研究のしかたに関するヒントをたくさん得ることができて、面白かった。31歳という、まさに現場感覚の研ぎすまされた年齢で書かれたものであることも大きい。こういうことを想定してこういう実験をした、こういうことを確かめる必要があった、こういう仮説が立てられる…など研究をする際の筋道やアイディアの立て方について考え直すいい機会になる。

研究の上でどういう閃きや失敗や騒動があったか、そういう話をたくさん盛り込んだ本がいい。そういう点で気に入っている本がいくつかある。それにならい、自分の経験に密着した研究談から研究の経緯というものを知ってもらうこと、そしてそれを通じて、どういう遺伝子の制御で植物の形と色はできているのかも理解してもらうこと、これを目標にしたいと思った。(p195)

「おわりに」に書かれたこの狙い通りの、幅広い人にお勧めできる一冊である。著者が読書家であることをうかがわせる、ほんとうにさらっと入った本の一節や紹介なども、本読みにはたまらない味わいとなっている。