久生十蘭「久生十蘭ジュラネスク---珠玉傑作集 (河出文庫)」

最近発見してしまった、直木賞作家、久生十蘭(ひさおじゅらん)の短編集をもう一冊読んでみた。(先日読んだ短編集はこちら→久生十蘭「湖畔・ハムレット 久生十蘭作品集 (講談社文芸文庫)」 - 千早振る日々
これまた期待を裏切らないおもしろさ。
幻想的な話、外国風情たっぷりの話、そして歴史に材をとった硬派な物語…。どれもこれも、江戸時代から戦前戦後に至るまでの時代の雰囲気といい、北海道、アラスカから日本の山村まで広がる舞台となる土地の雰囲気といい、きっちり書き分けられていて現実感に溢れている。
もちろん、そういう雰囲気のうまさだけがこの人の小説の魅力ではない。そういう、物語世界にのめり込めるような部分に加えて、読んでいて考えさせられたりどきっとさせられたりさせるような要素もきっちり盛り込まれていて、とにかく読んでいて楽しいのだ。
時おり顔を出す古かったり、時代風俗をあらわしたりしているような言葉使いもおもしろい。さらには、日常の市井の人間の語り口から、武士の歴史調の話し方、無頼な男の感じ、カタコトの外国人と、一つの短編集で何人の人が書いているのだというくらいの口調のバラエティにも驚かされる。
いったいどういう人生を送ればこういう縦横無尽な物語を書けるのか。