ティム・ブラウン「デザイン思考が世界を変える―イノベーションを導く新しい考え方 (ハヤカワ新書juice)」

デザインという言葉は、何かの形を考える、というような美術とか技術のレベルで考えることが今でも多い。しかし、この本ではもっと広い意味、つまり「発想によって世界を変える」という意味で使われている。
「デザイン思考」によりコンサルティングを行うIDEOという会社の発想力の秘密と、その思考法についてそのCEO自らの口から語られるこの本。「デザイン思考」の指すところは実に広く、いろいろとポイントはありそうだ。

ぼくは、シンプルに言えば、「今ある状況にどのような疑問をもち、どう解決策を発想し、どう実行し、周囲の状況を変えていくか」ということについて書いている、と感じた。
そのなかには、一人でできることもあれば、組織の長が考えるべきこともある。
しかし、それを貫く思考法は一つだ。

つまるところ、デザイン思考とは、インテグレーティブ・シンキング(統合思考)を行う能力なのだ。(p112)

これだけ読んでもわからないといえばわからない。しかし、正直なところ、この本はかなり当たり前のことを書いているのかもしれない、という思いが消えなかった。それはぼくが、研究者というさまざまな事象を統合して新しいものを生み出す発想力を必要とする仕事をしているからかもしれない。
ただ、創造性が必要な仕事ならだれもがこういう能力を持っているわけではない。進めねばならないプロジェクトがあったとして、事態をよく見ずに目先のすぐにできる解決策(っぽいもの)に飛びついたり、ひとまず仲間で仕事を割り振ってあとはフィードバックも特にせずそのまま、なんてことはよくある。仕事をきちんと前に進めるには、しばし立ち止まって考え、冷静にならねばならない。でも、なかなかそれはできない。
だからこそ、こういう本が必要とされるわけだ。

この本の語る範囲は個人についてのことだけでない。その個人を活かすために組織をどのように創造的なものにしていくか、といったあたりは、マネジメントにも関わることだけに、多くの人に参考になるところは多いだろう。