沖重薫「突然死の話 (中公新書)」

スポーツや睡眠の最中に突然心臓が停止する。スポーツ選手など、一見健康体に見える人がこうして突然命を奪われるニュースを時おりみかける。こんなに怖いことはない。
一方で、なぜそのようになってしまうのか、ということについてはあまりわからないし、明らかにされない。規則正しく、死ぬまで働き続けるのが当たり前の心臓。それが、突然死につながるような、普通ではないかく乱を受けてしまうのはどういう状況なのか。

この本では、心臓病の専門医として、心臓の突然の停止を数多く見てきた著者が、そうした悲劇はなぜ起こるのか、どうしたらいいのかについて語る。
心電図から、ある程度そうした突然死につながる心臓のリスクがわかるのだという。そうした欠陥には、先天的なものもあれば、食事や外傷、他の病気が原因になることもある。他の臓器の病気との関わりや、アルコールや運動、風邪などが引き金となって心臓のかく乱が起こる例の数々。こうした事例から、ある程度だが、運動選手など激しい運動ができる、一見健康体の人がなぜ突然死に?という疑問にもある程度答えられる機構があることを知り、感心してしまう。
同時に、風邪やストレスなどで容易に崩れてしまうような電気的バランスのうえで働く心臓の働きに、実に多くの要素が関わっていることを知らされると、改めて人体の精巧さに驚くしかない。驚いているのは素人の読者だけでなく、専門の医者である著者もまた、どこかで心臓の繊細な働きに畏敬の念をもってこの本を書いていることが感じられる。そういうところは、人間らしく寄り添ってくれる医師の優しさが感じられてよい。

もちろん、心電図では見出せないような病気もあり、全ての突然死を予期できるわけではない。著者も書くように、『心臓性突然死のリスクを評価する検査には決め手が少ないのが現状(p91)』とのことだ。ストレスなのか、脈が乱れている、心臓がおかしいかもしれない、などとどんなに心配で心臓を良く知る医者に診てもらっても、心電図に表れなれば、必ずしもその原因はわからない。

それは、しょうがないことだ。それでも、このような本を読み自分で知ることで、少しでもリスクを少なくしようとすることはできる。それに、少しずつでもよくわからない理由で死んでしまう人を減らしたい、そう思って研究し、臨床に関わっている人たちがいる。それだけで気持ちはかなり安心できる。
ある程度の専門性とアカデミックさが残りつつ、人間くささも垣間見せる。少しページ数だけから見ると薄いが、中公新書らしさにあふれる一冊。