中島さおり「なぜフランスでは子どもが増えるのか -フランス女性のライフスタイル (講談社現代新書)」

子どもを産むことに二の足を踏んでしまうのはなぜだろう、と自己分析している。仕事が今ほどはできなくなるから?お金が必要だ(けど足りない)から?結局いろいろ言い訳しているだけで、そんなこと考えているからダメなんだ、と感じなくもない。

では、どういう条件が揃えば子どもを産んでもいいと思うのだろう?そんなところから読んでみたこの本。決して、少子化問題は困るとか、そういう次元ではなく、あくまで個人的に今の感情に説明をつけたい、という部分が大きい。

とはいえ、読み始めるとそのあたりはどうでもよくなるくらい興味深い。堅い話題で分析しているというより、さまざまな歴史上のエピソードや現代の女性の意見を通して、フランスで子どもが増えている事態を多面的に考えていこうとするエッセイという感じだ。
フランス人女性がピルなどの避妊に積極的な理由である法律の成立の経緯や、小説に見るフランス的恋愛の起源とイギリスとの違い、そもそも子どもを中心に考えていなかった長い伝統、といったようなことについて、少々偏見が入りながらも偏りすぎない公平性を保った推測をしているのがとてもおもしろい。

日本とフランスの比較でなるほどと気づかされることも多い。日本では結婚しないと子どもを産みずらいが、フランスでは同棲など結婚よりも緩い男女の結びつき方が市民権を得ており、結婚してもしなくても変わらないため、子どもの前提となるカップルがうまく滑り出せる、という指摘はおもしろかった。
日本でも、実際のところカップルが少ないわけではない。職場、友人など自分の周囲を見てみても、一緒にいたい、と思い実際に結婚はさておき同棲しているカップルは多い。すごく健全なことだし、もっとそういうのが増えてもいい(結婚してはじめて同居、は個人的にはかなり困難が多いと思う)。しかし、では子どもは、となると二の足を踏んでしまうのが現実だろう。
このあたりは親の世代の考え方もあるのかもしれないが、だんだん、結婚より(法律的に)緩い結びつき方が一般的になってくるのかもな、とは感じる。それが子どもに結びつくかはわからないけれども。

さらには、フランスでも専業主婦の時代があったこと、しかしその後の社会構造の変化で女性が働きながら子どもを持てる状況が整っていったことなどは、日本にあてはめても、これから期待したいところだ。
もちろん、同じようになるには道は遠いなぁと思うところも少なくない。フランスでは全ての企業が参加し家族に手当を出す金庫があること、経営者が率先して家族単位の福祉を充実させようとする姿勢が見えるところなどは、正直なところうらやましい。
また、フランスの日常のなかにある男女の間のふとした艶っぽさとか、必ずしも真似しようとしてできるものではない文化的な背景もある。しかし、著者が「おわりに」で書かれているように、この本全体として、日本でも条件しだいで子どもが産まれやすくなる可能性を示してくれているのは勇気づけられる。