湊かなえ「告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)」

本屋大賞も受賞したミステリーを、「最後がすごいから読んでみて」と渡された。普段積極的に小説やミステリーを自分から読もうとしないが、そう言われると、ちょっと興味がわく。しかも、衝撃!と言われたり書いてあると、どれどれどんな展開になっているのかな、どこかでラストが見抜けたりしないだろうか、と疑いつつ読むことになる。
章ごとに、複数の人間が事件について語っていく。事件に関わった人、「告白」をする人により真実が違うという図式は、流行りというか、ミステリーによくあるかたちだ。誰が嘘をついているんだろう?…なんて思いながら読んでいると、どうもそうではないようだ。
章を進めていっても、人の違いによる矛盾はあまり出てこない。複数の証言は、事件の姿を徐々に浮かばせ、小出しで少しずつ真実が明らかになっていくが、決して誰かが決定的な嘘をついていたりはしない(ように読める)。そのため実に筋を追いやすい。これは予想できないだろう、というような事実が後からわかることはあまりなく、案外素直なのである。
わかるのは、それぞれの人物の背景と感情である。確かにそれは、語り手が違うと完全にわかるはずはない。少し深読みし過ぎたかな、と思いつつも、引き込まれているのに気づいた。さまざまな背景と感情を持つ登場人物それぞれの個性がはっきりしていて、その個性に駆動されるように事態は展開していき、必然のようにオチへ向かう。
これはおもしろい。深く考えさせられる、という部分が細部にあるわけではないが、最後まで読むとうーむ、と少しうならざるをえない。さすがに周囲の二人の人の手を経てぼくに薦められてきたのがわかる。

この本を原作として、「嫌われ松子の一生」の中島哲也監督が映画化するらしい。「下妻物語」も「パコ」も含めて一通り見ているぼくとしては、気になるところだ。巻末には監督のインタビューが載っていて、これがまたおもしろい。読後、登場人物に興味を持ちつづけられることがこの映画を手がけてみようと思ったきっかけであることや、これまでのように映像で驚かせるのではなく、スタンダードに撮っていることなどが語られる。
人間のどうしようもなさというか、不条理みたいなものも含めて楽しませてくれる中島監督に、この作品は確かによく合う気がする。
内容がわかってしまうのはもったいないのでこれ以上書かないことにする。簡単に読めるので、ぜひ一読を。