仲正昌樹「集中講義! アメリカ現代思想 リベラリズムの冒険 (NHKブックス)」

子どもみたいな感想だが、アメリカはすごい、と思った。

この本もまた、「<私>時代のデモクラシー」を読んだときと同様の問題意識があって読んだ。つまり、競争的・自己責任の社会において、公共の利益というか全体としての生き心地のよさ、のようなものをどう保っていくか、ということだ。
それを考えるのは、別に日本社会をどうこう、ということではなく、自分はどういう組織・集団で働きたいか、ということがモチベーションになっている。「自分さえよければ」と、「組織自体をより働きやすくしたい」、というところをどうにかつなげないか、という問いは、働いている人なら誰しも考える価値のある問題ではないだろうか。


さてこの本は、アメリカの現代思想、特に「リベラリズム」に焦点をあてている。下に「序」から引用させていただく。

自由主義あるいは資本主義社会の存続を前提にしたうえで、可能な限りの改善、社会的公正の確保を求めるしかない。そこで、アメリカの「リベラリズム」系の議論が、マルクス主義ほど人を熱狂させるものではないにせよ、現実的な社会変革を目指す思想として、今さらのように注目されるようになったわけである。(p26)

アメリカはすごい、と思ったのは、資本主義・自己責任社会の最たるものであると思われる国であるにも関わらず、いや、だからこそかもしれないが、徹底してこうした「社会的公正」について考え、議論してきた人たちがたくさんいた、ということに驚かされたからである。
確かに、「弱者に優しい」リベラルな思想は理想論になりやすいし、現実的でない、足下は脆弱だと見られることも多いだろう。しかし、それをわかったうえで、どう政治に生かしていくかについて、ここまで考え発信してきた人々がいるということに、勇気すら覚えた。
第二次世界大戦後から現代に至るまでの政治的、文化的な変化に伴い、自由を全てに優先すると考える「リバタリアン」と呼ばれる人々や、共同体の伝統やつながりを重視する人たちも含め、自由とは、平等とは、どのくらいの不平等が許容されるか…などということについての議論が交わされ、少しずつ議論の幅や思想の深さが広がり深まっていく過程は、地味と感じられるかもしれないが、非常に刺激的でおもしろい。

特に、序から第一講にかけては、歴史の流れに沿った自由思想を解説してくれ、これが良い導入になっている。そこから現代でよく議論される思想家たちの考えについてうまくまとめて解説してくれており、一冊全体として、現代の思想を理解するのにとても役に立つと思った。倫理の時間などであまり習わないところだろうが、ビジネス書やよく読まれる本でよく引き合いに出されたり、その背景にあるのが、実はこの本で紹介されているようなアメリカの現代思想だったりする。こういう講義を受けておきたかった。


さまざまな背景を持つ人々が集合して成り立っているアメリカだからこそ、国を一つに結びつけているものとはなにか、自由な個人同士がどう議論して公共を作り上げていくか、ということが常に問われ続けてきたのだろう。

個人の自由と、集団の平等のバランスをどうとるか。そういう議論をどのようにしていき、どう合意に至ればいいのか。これは、アメリカのみならず、自由な個人どうしがともに仕事をするという形式の現代の社会にあって、いやおうなく考えさせられる問題だと思う。
単に思想の歴史に興味がある人だけでなく、そうした、私たちの働き方や生き方とも深く関わってくる問題について考えたい普通の人こそ読む価値がある一冊。