セネカ「生の短さについて 他2篇 (岩波文庫)」

自省録』をあらわしたマルクス・アウレーリウスと並ぶローマのストア派の哲学者が、いかに有限な生を生くるべきか、を語ったこの一冊。
自分に向けた日記的なものとして、そういう口調で書かれた『自省録』に比べると、少々かしこまった書き方であるが、文章自体は全く難しくない。

収められているのは、3編。リタイアする日を待たず、自分のために時間を、具体的には哲学につかえ、と語る「生の短さについて」と、『幸福に生きることと自然に従って生きることは同じことなのである。(p148)』と説く「幸福な生について」。そして、「心の平静について」。


特に、「心の平静について」がよい。ローマやギリシャのいにしえの偉人の例がたくさん出てくるが、世間体をつくろうな、とか、孤独と仲間との時間と両方を持て、とか、たまにはハメをはずせ、といった、まるで世間を知った大人が優しく語ってくれるような、心を落ち着けて生きるためのアドバイスは今でも十分参考にするに値する。


解説での説明を読むと、この文章を書いたセネカがいかに死と向かい合わせの人生を送っていたかがわかる。哲学者になりたいと思いながら戦いの場に出続け、そのなかで思索を深めた皇帝マルクスとはまた違った意味で、常に逆境に向かい合っていたのだろう。
そういうことを知ったのちに、下のような文章を読むと、運命を開いていく生き方とはどういうものかを知らされるような気がして、感慨深い。

これほど激しい有為転変の生にあって、生じうることのすべてをやがていつかは生じることとみなさなければ、逆境に君の支配権を委ねることになる。先んじてそれを見て取った者は、逆境を打ち砕くのが常なのだ。(p111)

この本に興味をもった方は、個人的には、ぜひ下の『自省録』からどうぞ、とオススメしたい。心が奮い立たされます。
マルクス・アウレーリウス/神谷美恵子訳「自省録 (岩波文庫)」 - 千早振る日々