最相葉月「ビヨンド・エジソン」

絶対音感 (新潮文庫) [ 最相葉月 ]」「[rakuten:book:10970863:title]」などを著した最相葉月さんによる、最新科学研究を取材したノンフィクション。
恐竜や地震などのスケールの大きなものからウイルスや黄砂に至るまで、最先端の研究を行っている現役ばりばりの科学者に取材し、彼らがそこに至るまでに試行錯誤してきたこと、現在考えていることについて聞く。こんなことまで、こんなに詳細に、熱意を持って研究している人がいるのだ、ということに終始驚かされる。
愛読書を紹介してもらいそこから研究のスタンスについて見ていくという趣向はおもしろいと思った。どの方も一筋縄では理解しがたい研究をなさっている方ばかりで、真っ正面から研究の内容に迫っていこうとするだけだと息苦しくなってしまっただろう。本という引き出しから、視点が変わった話を引き出すことができているのはよかった。

出てくる研究者の方々に共通しているなと感じたのは、自分のやりたい道へ困難を顧みず進んでいくアグレッシブなところだ。自分のやりたい研究をやっているところが海外のある研究室にしかなかったらそこに飛び込んでいくとか、やりたい研究を提案して自らそれを立ち上げるとか、研究を続けるためならしつこい交渉も厭わないとか、そういう姿勢が研究を先に進めていくのだなとあらためて思わされた。
最後にひとつ、とても勇気づけられた言葉を引用。雪の結晶の研究で知られ、そのすばらしい随筆でも知られる中谷宇吉郎の孫弟子であり、南極の空気の化石を研究している深澤先生のことば。もともと寺田寅彦が言った言葉とのことだが、実にこれがよい。みんな悩んでいるのだ。

…研究者をしていると、研究に没頭できる時期とできない時期があります。私自身、授業や会議があって、研究をまったくやらない時間がたまにできてしまうんです。そうすると、もう一回始めるのはなかなかむずかしい。がんばろうと気持ちを奮い立たせないといけません。ですから、たとえ細々となっても必ず続けていくことが大切。一度決めたらやめちゃだめだと。(p114)