西原理恵子「この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ)」

いまさらな感のあるこの本を、例の古本チェーンで見つけて読んでみた。
一時期かなり話題になって、いろいろなブログで感想が載っているのをあちこち見た。また、著者本人がテレビに登場し、本の内容が取り上げられているのを見たりもした。ということでそれなりに内容はわかってしまっていたが、それでも面白かった。たくさんの人をひきつけるだけのことはある本だ。

貧困の連鎖を身の回りで体験しつつ、そこから抜け出したいと感じ続けた少女時代。東京に出てきてのち、水木しげるの自伝(←これも猛烈におすすめしたい。)に出てくるような泥臭い売り込みの日々。一つ一つの強烈なエピソードが、しかし、それぞれ全て現在の著者を支える源になっていることが感じられる。
だいたい、お金に関すること、社会というものの面倒臭さやリアルさについて、子どもの時から感じさせられたり教わったりする人はあまりいないと思う。この本を読んで、こういうことを子どもにわかってほしい、と思うのも確かだ。同時に、西原さんがそういう言葉を語れるのは、そういうことを体得される経験をしてきただけではないのだなと最後まで読んで感じた。たいへんな家庭に生まれ育ちながらも、この人の背中には確かに、親の教えてくれたことがしっかり一本通っている。例えばそれは、

「正しいことは正しい。まちがってることはまちがってる。人間、そう言える気概だけはなくしたらダメだぞ」。(p64)

という心構えももちろんなのだが、お金に関して言えば、

うちのお父さんなんて、わたしが男の子と会う日には、「おごられるくらいなら、お前がおごれ!」っておこづかいを余分にくれたりした。「女の子がタダでおごられるなんて、みっともない」というのがわたしのお父さんの考え方だった。(p169)

とかいう父親の言葉だったり、

「みんなでお金を出すときは、人より少し多く出しなさい」。わたしは、親にそう教わったけどね。少しくらい多めに出したからって、それで損をしたと思うな、あるときはあるほうが払えばいいんだから、って。(p166)

という心構えだったりする。
共通しているのは、お金の本でありながら、お金から離れるというか、それ以外の生き方としての心構えを大事にしていこうとすること。若い時に苦労するしないももちろんあるだろうが、苦労したからといってこういう考えを持てるとは限らない。逆に、お金を持っていても考え方がどこかピントがずれている…という人も誰しも思い当たるところがあるだろう。結局は親がどういう哲学を持てるかなのかもしれない。嫌いでしょうがなかった故郷、家族でも、しっかり彼女の今を支える考え方はそこからきている。

自分の生い立ち、自分のことから始まって、最後には世界の貧困に目が自然に向いていく。こうしてトータルに読むと、カネは確かにみみっちい話ではない、現実として生き方を左右するのだ、という現実がぐわっとくる。結局自分とは関係のない世界の貧困の話は、どうしても陳腐になりがちだ。しかし、自分の話からはじめて、こういうスケールでつながっていることを語れるのはすごい。ふところが深いとしか言いようがない。

心地いい場所をただ座して待っているだけではいけない。働き続けて、居場所を作り続けていく、希望を持ち続けていくこと。いいメッセージだ。