森見登美彦「新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)」

中島敦山月記」や太宰治走れメロス」などの古典的名編を、「夜は短し歩けよ乙女」の森見登美彦さんがリメイク。現代の京都を舞台に、大学生が大活躍。
編入っているうち、原作を読んでいたのは上に書いた2編。これはいかんだろうと、芥川龍之介「薮の中」くらいは読んでおかねばと思いそれだけはあらかじめ読んでおいた。全く背景も登場人物も違うが、作品からインスパイアされるものをうまく生かして書かれていて、とてもおもしろかった。それぞれ原作の味がよく出ていて、しかもそれが5編とも全く違うもので、楽しめた。

個人的な一番のお気に入りが、原作を読んだことはないが坂口安吾桜の森の満開の下」を下敷きにした1編。男が自分で持っている世界と、女が見ている世界。何が思い当たるというわけでもないのだけれど、読んでいてとても身につまされるというか、自分を振りかえってしまうというか、そういう妙な気分にさせられた。桜の描写もまたよかった。
この著者ならではの、京都の景色もたっぷり楽しめる。1編でも気になるものがあった方はぜひどうぞ。