忌野清志郎「ロックで独立する方法」

タイトルが面白いなと思いつつ、それとはあまり関係のないインタビューがさらっと読める形でまとめてあるのかと予測したが、さにあらず。実に骨太で、得るところの多い一冊になっている。これは面白い。
忌野清志郎さんが、何も知らずにロックをはじめたころの話から、『音楽を演る人』と『音楽を聴く人』との間に、業界というよくわからないモノが存在することを知っていく話、それから「独立」して自分のしたいことをどのようにしてやっていったか、という話が、言葉通りにものを為してきた人間だけがもつ迫力で語られる。
どれだけ自分ですべてをやりたいと願っても、あらゆる分野で分業が行われている現代においてそれは不可能に近い。では、どのようにして自分が自分で決められる範囲を広げていくか。それには、分業のされ方を知ろうとする勉強も必要だし、周囲の人間との粘り強い交渉も必要だ。そして何より、自分で自分の好きなことをやるのだ、という強烈な思い、さらにはそれをある程度社会に認めてもらえる、という「結果」も必要だ。
ミュージシャン(この本で著者は自分を「バンドマン」と呼んでいるが)もまた、数多くの分業のうえに成り立っていること。知ってみれば当たり前だが、その関わる人の多さ、自分の意思がねじ曲がることへの葛藤(インタビュー記事の扱われ方など)、自分でやろうとすることの大変さ、などは臨場感があって新鮮な驚きがあった。
もちろん、いかなる仕事であれ、全てを自分でやろうとするのは無理がある。実際にはさまざまな人の協力のうえに自分の仕事が成り立っているとしても、譲れないことを譲らないために、状況を見極めて面倒でも自分の頭で考えていく…そういう心持ちを持とうぜ、というのがこの本の「独立」という言葉の意味なのだろうと理解した。ほんとうに、もっともなことだ。
これを一冊読むと、気持ち的にも、金銭的にも「業界」とか他人から独立して生きていこうとすることの面倒くささ、それにかかるパワーの量というのを感じさせられる。著者のことを世間一般で言われるようなイメージでしか知らない自分には驚きだったが、これはずいぶん気を使う、身体をすり減らす生き方だなと感じた。この本ではさらっと語られているところでも、語られたときこそそう思えたにせよ、それに直面していた当時はずいぶんな葛藤があったのだろうなと感じられたりもした。
何と書いたらいいかわからないけれども、すごく頭のいい、好きなことをやるために周りに気をつかわれる方だったのだろう。あのオーラを持つに至るまでの、そういった人生の過程を考えてしまった。
そういう彼から放たれる、ロックという仕事が市民権を得てしまった時代にロックを目指す若者への言葉は、文化・芸術・学問・スポーツなどを志すものの胸にぐさっとささるものだと思う。面倒な思いをしてでも、自分の気持ちに正直なことをやっていきたいと思い続けること。その気持ちこそが原動力になること。すごくよくわかる、勇気をもらえる言葉だったので、最後にそれだけ引用させてもらいたい。

でも、周囲が最初からそんなに「理解」してくれちゃってたら、本気でロック・ミュージシャンになる決心なんて、できるんだろうか?周囲からの反対やら妨害やら軋轢やらがあるからこそ、自分が本当は何をやりたいのか、何になりたいのか輪郭がはっきりしてきて、「よし、オレの気持ちはホンモノだ」っていう確信が固まっていく……そういうものなんじゃないのか?(p50)