矢口祐人「ハワイの歴史と文化―悲劇と誇りのモザイクの中で (中公新書)」

ハワイ関係本、4冊目。中公新書ということもあり、少しお勉強系。
池澤夏樹さんの「ハワイイ紀行」ではあまり触れられていなかった移民の歴史が、実質的に章2つ分をかけて書かれていて、特に勉強になった。日本というルーツを持ちつつ、アメリカという国の一部でありかつ独自の文化と歴史を持つハワイで、自らのアイデンティティを保ちつつ生きることの難しさ。さらには、第二次世界大戦においてアメリカで唯一日本からの直接的な攻撃を受けるという出来事が、なおさらハワイの日系人の立ち位置を揺さぶってしまったこと。
ハワイにおいて多くの場所で日本語が通じてしまい、日本人の雰囲気を残す人々が暮らしているということが、これだからハワイはいいねー、というような楽天的な気持ちだけでは受け取れない歴史のもとにあるのだということ。このことを頭に入れるだけでも、日本人にとって常夏の観光地でしかないハワイという場所をより深く知ることになるのかもしれない。
なぜ日本人がたくさんハワイに行くのか、といったハワイ観光の歴史とその変遷を論じるあたりもまた面白かった。歴史と文化の単なる概観にとどまらず、より深いことを考えさせられるような話の絞り方もうまいと思った。
読書ガイドや音楽ガイドもついており、学者さんの書いた本だけあって、参考文献もしっかりしているあたりが個人的にはとてもうれしい。ちょっと堅めではありながら、ハワイについて考える際の道しるべとなるような一冊。