「カポーティ [DVD]」

ティファニーで朝食を」のトールマン・カポーティがノンフィクション小説「冷血」を書くまでを描いた、実に淡々とした映画。既に社交界で一定の評価を得ている小説家のカポーティは、新聞記事のある殺人事件に目を留める。4人家族が惨殺されたこの事件に材を取った小説を完成させるため、加害者に接近し取材していく彼だが…。
加害者を自分の小説のために利用しようとしながら、一方でどこか加害者の感情に引き込まれてしまう姿。表面上とても社交的でありながら、自分の成功のために冷徹な目で小説を書こうとする姿。大きな仕事を成し遂げようとするものには誰にでもあるそういうダークで冷たい部分と、成し遂げる過程で失われるものをじっくりと見せてくれていて、非常に面白く見た。なかなか完成しない仕事にのめり込むあまり、一番の友人に冷たくしてしまう様子とか、一方でうまくいかないことにいらだって電話をかけまくってしまう様子とか、自信と不安の両方が見える主人公の演技には引き込まれる。
これを見て思い出したのは、高校のときに日本史の先生がすすめてくれた沢木耕太郎の「テロルの決算 (文春文庫)」だ。社会党委員長浅沼稲次郎と、彼を刺殺した青年の心の動きを取材し、二人が交錯するところを書いているノンフィクションで、どきどきしながら最後まで一気に読んだのを覚えている。加害者の側にもスポットを当てるというところが似ているが、そういうものを書こうとする著者の心の葛藤を見せてしまうところがこの映画の面白いところ。小説を書くのでも絵画を描くものでも、人を動かすようなモノをつくる人間はその過程で自分もまた変わってしまうことがあるのだな。うまく言えないが、そういうことに最近興味がある。