岩科司「花はふしぎ (ブルーバックス)」

タイトルは「花」と広くつけているが、著者は花の色を分析してきた研究者で、メインは花の色のはなしである。花の色がどのような成分からできているのか、そのような色を出すことにどのような意味があるのか、といったことから、なぜある花が持っている色の成分を、それに近い花が持っていないような例があるのか、といった進化的な話に至るまで、実に興味深く読ませてくれる。
花の色を作る二大成分(色素)は、最近、生活習慣病を予防する機能性成分として知られてきているアントシアニンとカロテノイドである。アントシアニンは赤ワインやブルーベリー、カロテノイドはニンジンなどの緑黄色野菜に含まれていることがよく知られている。この本ではこの二大色素から花の色の話をはじめて、それぞれの色素の仲間がどのくらいあって、どのように多様な色を出すのかということを説明してくれる。詳しくもわかりやすくて、身近な花の色という案外わかってなさそうなことが、ここまでわかっているのか、と驚く。
この基本からしっかり解説してくれるおかげで、アントシアニンとカロテノイドは混ざり合わないので両方あると濁った色になってしまうとか、白い花には色素がないわけではなく人間には見えない紫外域の色がついているので虫がよってくるのだとか、少々難しい話が実に面白く頭に入ってくる。
また、花の色についての研究をずっとやられてきた著者だけあって、ツユクサアジサイなど青色の花が出てくる仕組みについて日本人研究者が貢献した歴史についても多くを触れてくれており、花の色という地味そうな分野ではありながら、実に多くの日本人の研究者が独創的な仕事をしてきたことがうかがいしれる。そういった話を見せられて本の最後に、サントリー青いバラの作出についての話が紹介される。さまざまな人の注目を集めた青いバラの作出が、花の色についての研究を行ってきた多くの研究者たちの成果の上にできたものであるという当然ながら忘れがちな事実を、押し付けがましくなく納得させてくれる構成はとてもよい。
さまざまな色素の名前が出てきて読みにくいと思われる節もありながら、我々の身の回りにある花や食べ物などを常に例に引きながら解説してくれるためになじみのない人でも読みやすくなっている。アマゾンの書評もついてないほどの地味な本ではあるが、だからこそおすすめしたい一冊。