ピーター・バーンスタイン「リスク〈下〉―神々への反逆 (日経ビジネス人文庫)」

上巻の続き。
未来を予測したいと考える人たちが作り上げてきた確率理論。この理論についての話は上巻から下巻にも続いているが、確率理論の創造に関する話は、『平均への回帰』の法則を用いることの有用性を説いて一段落する。すなわち、株式市場でもなんらかの確率的事象でも、一つの方向に極端に進み続けることはないということである。この、現在の結果を重視しすぎず、現状がいつまでも持続しないと考える『平均への回帰』は、しかし、一つの道具に過ぎない。それですら予測できないことのほうが世の中には多い。
下巻ではより時代は進み、現代に至るまでのリスク管理や不確実性に関する研究が紹介される。本のタイトルになっている『リスク』についても、上巻より下巻でより触れられることになる。
第一次大戦後、世界はより不確実であり、確率では理解しがたいと多くの人が思うようになった。また、科学技術の発展に伴いリスクの数が増え、リスク管理に対する需要が高まった。これらのことからリスク管理が技術として使われだしたという歴史的背景は、こういった学問や技術を理解するうえでとても有用でわかりやすい。
この本の後半は経済学をちゃんと勉強していないものにとって若干難しい。それでもこの本は、不確実性を中心に据える理論を打ち立てた人としてケインズを紹介してくれ、経済学理論の大きな流れも俯瞰できるようにしてくれる。
ゲーム理論も、『不確実性の真の原因は他人の意思にある(p102)』ことを明らかにした、と不確実性という観点から説明されることで、これまではっきりしなかったその意味合いをよりよく理解できるようになったように思う。
ゲーム理論を含め、投資などの意思決定の場面で、どれだけ人が合理的に行動できないか、を示すさまざまな実験が紹介される。これらは、悲しくなるほど自分の考え方に固執し新しい情報に振り回される我々の姿を浮き彫りにする。それを煽るように新しい投資法の本などは出続けている。
このような時代に、どうお金とそれに伴うリスクに向かい合っていけばいいのか。相変わらずまったくピンときていないが、少なくとも一つ分かったことがある。我々が誤った直観や過去の経験を取り入れてしまう、いつでも誤ってしまう、そういう可能性に満ちた存在だということ、そしてだからこそ、さまざまな人が確率や確実性について考えてきたのだということは忘れずにいなければ、ということである。
勉強不足の人には説明が足りないところがあったり、駆け足のところがあったりと必ずしも読みやすい本ではなかったが、確かにものの見方を少し変えてくれる本ではあった。

ちなみに、下の本も読んでみた。こちらは、証券化の仕組みをこの本でも書かれているリスクという点から解説していて(特に第一章)、そこが初心者にはとても分かりやすかった。本全体を紹介して細かく書くほどではなかったように思うので、関連本としてメモっておくにとどめる。

すべての経済はバブルに通じる (光文社新書 363)

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