澤上篤人「10年先を読む長期投資 暴落時こそ株を買え (朝日新書)」

お金関係の本を一冊。正直なところ、こういう本を読んでいますよ、というのは、お金に無知ですよ、と告白しているようで少し恥ずかしい気もしてしまう。しかしこれはちょっと面白いところのある本だった。
さわかみファンド』の社長が自ら語る長期投資論。こういう本によくあることに、貯蓄より投資しないとだめですよ、複利効果が富を生みますよ、というところからはじまる。著者が勧めるのは、相場や周りの動きに惑わされない、長期投資である。
『だれでもできる』は言い過ぎだと思うし、目利きでもない人が『未来の社会を思い浮かべて』応援したい企業に投資するのはとても難しそうだ。自分で資産を増やしたい人がこの本を買っても、実際に着実に増やしていけるかはわからない。
ただ、この人の考え方はなかなか芯が通っていて、その語りを読むのはとても面白かった。
どういうことかというと、投資を勧める人は、早く投資をはじめないとまずいよ、これからはみんな興味を持って資産形成をすべきですよ、と読む人の危機感をあおることが多いが、この人のスタンスは少し違うのだ。
「将来を考えてあなたがすべき」というより、「わたしはファンドを運営する立場としてすべきだと思う」という著者自身の哲学が強く出ているのである。例えば、暴落時こそ『断固として買い向かう』のが投資家の努めであり、社会的な役割であるとためらいなくのべるくだりや、長期投資というのは「ゼロサム・ゲーム」ではなく『みんなで豊かになることを意識する(p74)』のだというところである。
こういう考えはあまりにも綺麗なために眉に唾をつけて読む人もいるかもしれないし、実際に自分の仕事の社会的意義を大きくいうところはあるのかもしれないが、それらを割り引いても、こういう、投資に興味を持った日本の人に向けた軽めの新書にガツンとそういったことを書く人はそんなに見ない。あえて個人の危機意識をあおらなくても、投資には社会的意義があるのだ、それはちゃんとわかってもらえるのだ、という自信が伝わってくる。
『長期投資が「民間版の景気対策」につながる(p184)』という指摘はなるほどそうだと感じたし、実際に地域で仕事をしている人たちが自分たちだけの投信を作ろうという動きもあちこちであるらしい。
もちろん、自己責任の世界であることは間違いないだろうが、国があれこれやってくれるわけではない将来を考えれば、一人だけ勝ち抜こうというのではなく、地域やみんなで豊かになっていこうという気持ちのほうが重要であるように思う。ポーズでもいいからこういうことを述べられる人の言葉こそ聞きたい。