晴山陽一「英語ベストセラー本の研究 (幻冬舎新書)」

これまで自身で英語関連本をさまざまに生み出してきた著者が、戦後から現在にかけて出版された英語学習に関してのベストセラー本を読み直して比較し、英語教育はどのようにするのがよいのか、について提言する。全てがすぐに身になるわけでもないのに英語本が出てしまうと買ってしまう自分のような人間にとっては、英語ベストセラーの比較、というこのアイディアだけでも買いである。
この本を読んでいると、戦後からこれまで、英語の教育はいかにあるべきか、という問題に関する対策がいかに迷走してきたかがよくわかる。たとえば、戦後すぐの英語本では、すでに「聞いた通りの音をカタカナで表わす(Good eveningを「グ・ディーヴニン(グ)」と表わすなど)」という最近新しいやりかたとして示されていたような工夫が既になされている。また、戦後すぐの指導要綱では、『英語で考える習慣を作ること』という、いまでも誰かが言いそうな考えが既に示されているのだ。
それから時代が下り次々と出るベストセラーの中でも、コミュニケーション重視の学習法や、ある一定のパターンを次々と変えて話していく「パターンプラクティス」と呼ばれるような方法についてなど、英語学習の方法について様々な人が実に先端的な考えを提示している。パターンプラクティスなどは、教師の質が良いことで知られる某英会話学校でも、実際にその指導の中心として行われていた。これまでのベストセラー本で示されてきたさまざまな学習法は、いまでも十分になるほどなるほどと納得のいくものばかりなのである。
著者は、そうしたベストセラー本に書かれた先人たちの知恵から、英語学習法の変わらないエッセンスを取り出して読者に示そうと試みている。簡単に書くとそれは『音読+英語で考える(p218)』というもので、例えていうなら英語で九九を言うようなものを構想しているとのことだ。その学習法の内容は、次の著書で具体的な方法について示してくれるというので、ぜひそれを待ちたい。
結局のところ、偉い人がどんなに中学高校の英語の授業の仕方について考えたところで、それを既に過ぎてしまった人間としては、自分で、自らに合った英語の勉強法を見いだしていくしかない。もちろん、子どもが英語を勉強している人も、学校の方法に頼らず指針を示してあげられるくらいの納得の行く方法を自分でつかんでおきたいではないか。
この本には、そのためのヒントが満載である。それを著してくれたのは、「英語達人列伝 あっぱれ、日本人の英語 (中公新書) [ 斎藤兆史 ]」に出てくるような天才的な学者たちとはまた違う意味で、英語の学習について自分の考えを突き詰めた達人たちである。英語学習に真摯に取り組んだ彼らは、日本の人がどのように英語を勉強したら良いかについて真剣に考え、提言してくれている。その智恵を拾いだし、再び私たちの前に見えるようにしてくれたこの本は、英語の学習のしかたについて再び考えるよいきっかけになるだろうと思う。