永田俊也「落語娘 (講談社文庫)」

ひさびさに、落語を題材にした面白い小説に出会った。
おじさんに連れて行ってもらったのをきっかけに落語に深くのめり込んでいき、落語家見習いとして修行を始める女主人公。彼女が入門することになったのは、家族を亡くし、男一人で組織からも干された中堅落語家。
この筋立ては「ちりとてちん」とも似ているが、この小説では登場人物は最小限に絞り込まれ、中心となるストーリーに否応なく引き込まれる。破天荒な落語家が、語った人間を呪い殺すという封印された噺、『緋扇長屋』に挑むという筋は文句なしに面白い。物語にも無駄がなく、キャラクターも立っていて読んでいて楽しい。
落語を題材にした小説は、現代という設定でも、物語の中の雰囲気にひと味変わったものが加わるところがよい。この小説も、人情噺、怪談噺の雰囲気を醸し出しつつ読ませてくれて、おすすめできる。
この小説はミムラ津川雅彦で映画化されるとのこと。そろそろ公開。
http://www.rakugo-musume.com/
ちょっと津川さんはこの本を読んだイメージより歳がいっているが、そこは名優、予告編を見る限り実に似合っている。
しかも、あとがきにこんなことが書いてある。

古典、新作両道の才人、柳家喬太郎師匠が、断片でしかなかった『緋扇長屋』を堂々たる古典落語の体に整えてくれた。(P310)

おー、すごい。
過去には、『キサラギ』まで落語にしてしまったことがある喬太郎さんが仕立てたこの噺、ちょっと聞いてみたい。