絲山秋子「ニート (角川文庫)」

この人はダメな男を書くのがほんとうにうまい。ただダメな様子を書くのではなく、そこに至ってしまうような人生も十分にありうるのだ、という人生の大変さや不条理さみたいなものを登場人物の様子が語っているのである。
男だけではなく、登場人物どうしで交わされる言葉は実に自然で、さらっと人間関係を書いているように読める。しかし人間はその奥底では何を考えているかなどわからないものだ、という日常の怖さみたいなものも感じられて、向田邦子が好きなものとしてはたまらない。
そういう、ほっこりした感じと殺伐した感じ、両方あってこそ人生だし、それを書いてもらってこそおもしろい。
はてなで本について日記で取り上げている人が、どんなことを書いているのかな、といろいろ見ていると、「買ったー」「読んだー」だけの人も多い。そんななか、絲山さんの本は、けっこうじっくりと思ったことを書いている人が多くて、ああ、この人の小説はしっかり読んで、いろいろ考えてくれる、大事にしてくれている読者さんがとても多いのだな、といい気分になる。それほど全てを読んでいるわけではないが、たしかに、そうさせるだけの魅力をこの人の文章はもっていると思う。