「ちりとてちん 完全版 DVD-BOX I 苦あれば落語あり(4枚組)」

DVDを知人から借りたものを土日で一気に見たが、これはすごい。DVDの売れ行きが良いらしいのもわかる。
若狭の塗り箸職人の娘が、大阪に出て上方落語を志す、というお話。
主人公が小さい頃に、おじいさんの工房でかかっている落語のテープを聞くのが彼女が落語に触れるきっかけとなるわけだが、これがとても自然に描かれていて、いい。
学校で嫌なことがあって帰った家。工房の寡黙なおじいさんの背中。そこで空気のようにかかっている優しい声の落語のテープ。このシチュエーションだけでうるうるきてしまう。小さな主人公が寡黙な老映画技師のもとで映画の素晴らしさに触れる「ニュー・シネマ・パラダイス」を思い出してしまうのもあるかもしれない。
こんな最初でうるうるきているようでは、お話にならない。その後のお話では毎回涙が出そうになるのをこらえるのに必死。主人公が生まれた町を出るシーン、大阪で人と人の関係の素晴らしさを感じる出来事。どれもこれも胸が熱くなってしまう。もちろん、大阪で作られたものだけあって、ずっと湿りっぱなしにはしない。なにげない会話で笑わせるしつこさがまたたまらない。
なにせ展開が自然で、無理やり感がない。話が展開するきっかけは、まったく違う話の中にあらかじめ組み込まれていて、ああ、ちゃんとあの人はあそこでああしていたものな、といちいち納得できるようになっている。
また、登場人物も、完璧な人間もいないし、逆にまったく共感できない人間もいないうまいバランスで作られ、演じられている。自分ではない他人には嫌なところもたくさんあるけれども、それでも通じ合えるし共感し合えるのだ、という素朴なメッセージをさまざまな登場人物を通じて感じさせてくれる。逆に、ダメな自分、他人と比べてしまう自分をどう肯定していくのか、というあたりに関しても、作り手の視線がとてもあたたかい。そんなにすぐにうまくいくことなんてないんだよ、他人と比べてもしょうがないんだよ、という思いを自然に感じることがしばしばで、そこがまたうるっとくる。
いやー、これはよくできている。ドラマというのはどうしても見ながらアラを見つけてしまったりするものだが、そういう暇すらあたえない。とてもとてもおもしろい。DVDは確かにお金が張るけれども、いろいろな意味で自分に自信がもてなかったり、弱気になっている人、なにか元気になりたい人に間違いなくおすすめできるドラマです。