大崎茂芳「クモの糸の秘密 (岩波ジュニア新書)」

クモの糸について研究してきた著者が、クモの生態とクモの糸の面白い性質を紹介するとともに、クモの糸にぶらさがるという夢を実現するまでの試みと苦労話を語る。
芥川龍之介以来の(?)悲願であったこの実験は、もともとテレビの企画で始まったものであるらしい。この本でも、初期の段階では、テレビならではの行動力に、科学者の緻密さが伴わずにうまくいかなかったりと苦労した経験が披露されている。しかし、その経験をしっかり生かして成功につなげていく過程は、一つのプロジェクトをいかにして遂行するかという意味でとても面白く、参考になる。
いまや、困難が伴うようではあるが、クモの糸も遺伝子工学的に作ることが試みられているらしい。そんな中で、クモの糸にぶらさがってみるとか、クモの糸のフィラメントが実は二本だったとか、そういう基本的でわかりやすい研究をやっていくことの面白さ、重要さを再認識させられた。ジョロウグモは巣を半分ずつ張り替えるという発見なども、その素朴であるながら効率的な自然の神秘に読んでいてどきどきしてしまった。
ジュニア新書ということでわかりやすいだけでなく、サンプリング(材料を取ること、この本で言えば丈夫なクモの糸をきれいに取ること)の難しさや、科学に必要な根気の強さなど、面白い科学の本には重要だと個人的には思う「現場感覚」に満ちていて、いい本である。大人にもおすすめできる。