山田詠美「風味絶佳 (文春文庫)」

映画化された印象や帯などから、いかにも恋愛小説、という感じではないかと思っていたが、さすがに山田詠美。もちろん人間関係の一つの形として恋愛を大きく取り上げてはいるものの、単に恋愛というにとどまらない人間関係の機微を描いており、性別や年齢を問わず楽しめそうな上質な短編集。
とび職、ごみ収集業、ガソリンスタンド店員…。各短編に出てくる働く男たちと、その家族や知人、そして彼らと深く関わる女たち。一人称の短編も含めて、どの作品も、男女どちらかの視点に偏ることなく読める感じがよい。読者の性別を問わずに楽しめそうなのはこういったあたりにも理由がありそうだ。主人公やその恋人など、物語の中心をなす誰かに共感せずとも、物語に素直に入っていける。
花の名前、イタリア料理の名前、アメリカンな物言い、斎場で使う言葉。言葉のバリエーションの豊かさにもまた、読んでいて飽きさせられない。あとがきと解説にまで神経が行き届いていて、うまいなぁ。