吉田修一「春、バーニーズで (文春文庫)」

同じ著者の「最後の息子」の主人公のその後を綴った短編集。…ということは読み終わってから裏表紙を見て初めて知った。
最後の息子」に比べてずいぶんとトーンが暗く、続いた話になっているのだということに気づかなかった。それだけではなく、この本の連作となっている短編のひとつひとつもまた、主人公は同じでありながら、少しずつシチュエーションと文章の出している雰囲気が違っていて、それがなんとも面白い。
たとえば、表題作などは句点の多さが特徴的で、読んでいくとくせになる。句点でつながれた長い一文を読んでいる間、映画の長回しを見ているように、一つ一つの風景を頭に描かせてくれる。一方で、夫婦の会話が可笑しくもどこか怖い一編や、男の一人語りが現実と幻想の境を見失わせるような一編など、実にバラエティーに富んでいる。全てあわせて読むとなんともいえない読後感があって、うまい。