吉村典久「部長の経営学 (ちくま新書)」

会社は誰のものだろう?株主のもの、というのはよく言われるし分かるが、短期的にしか関わらない多数の「株主様」にばかり目を向けながら、会社の長期的な成長はなしえるものだろうか?

こういった問題に対する解決策を、タイトルにある「部長」を中心とした、会社の中核を担う従業員の役割に注目して考えていく。従業員主権、すなわち、会社に長くコミットしている部長・課長といったミドル層が会社に対して物申すことができること。これが長期的な会社の発展には重要ではないかという考えを、さまざまな会社の実例から主張していく。

では具体的に、会社の中堅格として日々仕事をしている人間がどのように経営と関わっていけばいいのだろう、という具体策については、それほど示唆が得られるわけでもない。それよりは、株主の持ち合いなどにおいて、企業を長期的に安定したやり方で経営していけるのではないか、とよりマクロな、社長さんが考えるべきというような施策について紹介している。あとは、経営者の任免に従業員が関与するような仕組みがある会社について紹介したり、研究者が考えたそのような仕組みの試案について比較したりしているのもなかなか面白い。
結局のところ、今の段階では従業員ができることは多くないのかもしれない。しかし、少なからず従業員の役割を重視し始めている企業があるのも確かで、そういった動きを紹介してくれるという意味ではとても有益だった。

会社外でも役に立つ能力(コンピテンシーとでも言うだろうか)を磨くべきだ、自社でしか役に立たない人間はいらない、というのは簡単だ。もちろん、そのように一つの会社にこだわらず、自分の力一つを頼りに働いていくのも一つの生き方だ。しかし、長期的に一つの会社に腰を据える人間だからこそできる決断や方向づけがあるのも確かだ、ということをこの本を読んで感じた。