宇多田ヒカル「HEART STATION」

あえて本のメモの間に挟むべきかどうかちょっと迷ったけれども、久しぶりに自分でCDを借りてきて聞いたので、書いておく。そう。ベタですが、好きなんです。
しかし、なぜか、あんがい「なにがいいのかわからない」と言う身近な人が多いので、CDが出たらちゃんと聞いているなんて、他人には言わないことにしている。
ポップスに限っても、人と一緒に聞きたい音楽とか、不特定多数の人がいるお店などで流すのにぴったりな音楽とか、いろいろあると思う。
でも、この人の音楽は、周りに好きな人がいないというのが理由ではないけれども、一人で聞くことを想定して作られているのかな、と思ってしまう。たとえば、多人数でドライブをしている車の中でかかったりしても、なんだかそぐわない。気づけば、一人の世界に入って聞いてしまうのだ。彼女自身が、一人一人の孤独に音楽を聴く人に向けて一曲一曲を作って、静かに届けようとしているように思える。アルバムタイトルにもそんな気持ちが現われている。
そういえば、ポップで聞きやすい曲を作るのがモットーの知人のミュージシャンが、こんなことを言っていたことがある。…「俺はライブに行くのは好きじゃない。俺にとって音楽は一人で聞くものだから」…これを意外と思うかそりゃそうかと思うかは人によって違うだろうが、個人的には、音楽を作る人としての彼の言うことは、とてもよく分かる気がした。
つまり、誰かと共有したい音楽もあるだろうけど、一人で聞きたい音楽もある。実は、作る側としても同じじゃないかと思ったのだ。もちろんたくさんの人に聞いて欲しいからライブもやるし「みんな盛り上がって」と言うけれども、気持ちとしては、一人で聞いている孤独な魂に向けて音楽を送り出している、そういう人に向けて曲を届けたい、ということもあるのではないか。ライブで盛り上がってもらえるようにできるのも一つの仕事で、大切だというのもわかる。その盛り上がりで評価されることもあるのだけれども、それも音楽の一つの側面に過ぎない。
前の作品もそうだけど、自分の感覚をとても大事にして、自分はこういうのがやりたいんだ、というのをちゃんと出してくれているのがいい。これからも、きっとアルバムが出るたびに、ひっそり入手して聞いていくのだろうなと思う。