河合隼雄「大人の友情 (朝日文庫 か 23-8)」

ありきたりだが、惜しい人をなくしたものである。
タイトルどおり、河合先生が友情について綴った文章を集めたこの小さな文庫。
友情を支えるものは何だろう、信じられなくなったときにどうすればいいだろう、亀裂が入るのはどういうときで、どういう心持ちでいるのがいいだろう…といった、さまざまな人間関係の局面における心のもち方を、少し引いたところから一緒に考えてくれる。

とにかく、心を楽に持とうではないか、というスタンスが読んでいて気持ちいいのである。たとえ友人どうしであっても、必ずしも他人の全てを受け入れられるわけではない。陰も悪もあるのが人間だし、友人や夫婦であっても、ぎくしゃくもしようし破局もあるだろう。
でも、そういった嫌な面も含めて人間なのだから肩肘張りなさんな、十分悩んだらそれ以上はしょうがないこともあるさ、とかけてくれる著者の声が優しい。
この、考えすぎない、こだわりすぎない、というスタンスは、友情だけでなく夫婦に対する考え方についても反映されている。例えば、夫婦の絆として重要なものの一つにこそ、『友情』があるだろう、という考え方なども、「常に男女を意識できないといけない、ドキドキしていないといけない」みたいなこだわりとは無縁で、バランスがいいなぁと思う。
最後に、『友情を支えるもの』についての考え方が、いいなぁ、わかるなぁと思ったのでちょっとだけ引用させてもらう。
生きているって、実はそんなに当たり前じゃない。それがわかったときに、友情が、ぐんと深くなることを実感したことがあるので、次のような言葉が、なんだかとてもよくわかる。

友情を支える互いに共有するものが、目的や理想でないとすると、それは「生きていること」とでも言いたくなってくる。「お前も生きているのか、俺も」と言いたいような感じ。「お互い、生きててよかったな」というものが伝わってくる。(p34)

こんな感じの優しい言葉は、心がささくれ立っているときなどにとても効きそうだ。
臨床心理学者だから、というだけではない、著者だからこそわかる人生の味わいのようなものを教えてくれる一冊。